ガチャッ
鍵の開く音と共に、扉が開く。そこには、
大量の赤い液体とともに玄関前に倒れる愛しい君がいた。
俺の大音量に反応したのか、あなたはぴくりと動いた。
あなたはむくりと起き上がり、俺の方を見るやいなや変な声を上げた。
こんな時ばっかり鍛え上げた滑舌が働き、スマホを取り出しながらものすごい速度でまくし立てる俺に、君は若干噛みながら俺を制止しようとした...が。
プッツン
彼女の怪我+反応しない指紋認証に一切噛むことなくパニクっていた俺の口を君はキレながら手で塞いだ。
先程一瞬般若のような顔になったとは思えぬような穏やかな顔で、かつカッコよく顎で俺の携帯をしゃくる。
思わず彼女のかっこよさに見とれた上若干大量の血というものにビビっていたのもあり、我ながら声が裏返った俺を情けなく思った瞬間であった...。
10分後
先程とは打って変わり、仁王立ちする俺の前に正座して小さくなる彼女。
今にも泣き出しそうなその瞳に胸をつかれる。
ううう、ダメだダメだ。ここはしっかり叱らなければ。
はあ、と溜息をつき、俺は泣きだしそうな彼女に目線を合わせる。
今度は俺が顎でしゃくる番である。
廊下の血(糊)をしゃくってみせると、彼女は益々小さくなった。
語尾になるほど小さくなる彼女の声。
俺はもう一度ため息をついた。
痛いような痛くないような微妙な感覚に衝撃を受け、混乱する彼女。心の中で笑う。
彼女の額に弱めのデコピンをしたのだ。
ついでに、彼女の目を手で覆う。
チュッ
微かに音が響き、俺がしたことを察した彼女の耳と頬がみるみる赤くなっていく。
彼女は黙って頷いた。
そして、俺は彼女の目を覆ったままそっと彼女を抱きしめる。
彼女が恥ずかしそうに身動ぎしたのがわかった。
家に帰ると、彼女が死んだフリをしていました。
終
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。