前の話
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まだ肌寒さが微かに残る3月の終わり。だだっ広い校舎内を1人の生徒が歩いていた。
背に垂れる髪に大きな瞳、しかし野暮ったい眼鏡で台無しにしている少女・領恩寺 美空はしかし、旧男物の制服だった。
彼女は学校法人葉影学園の経営する中でも金持ちが多く通う葉陰学園にもうすぐ通うようになる生徒なのだが、何年かに一度しか出ないと言う噂もある……奨学金の得られる唯一の『特待生』として合格した事で春休み中に生徒会へ挨拶に行く事になっていた。
しかし葉陰学院はお金持ちが通う学校で一般庶民の家に生まれた美空は新しい制服が買えず、父が学院OBだった為、通っていた際に来ていた旧男物制服姿を借りて着ているのであった。
葉陰学園はまだ新しい制服に変えて1年経つか経たないか位なので、春休みの部活動に来たらしい生徒達を見ても旧制服を着ている者も少なくはなく、美空が一番嫌いな目立つ事をしなくて済んだ。
しかしそれに安心する間もなく、彼女は完全に迷っていた。
葉陰学院は金持ちの集まる学院だけあって、敷地も校舎も何もかもが広かった。
そう叫びそうになるのを堪え、小さな声で呟く。
声を掛けて訊こうにも誰も通らない所か、人の気配すらしない。
途方に暮れかけたその時……。
後ろから声が聞こえ、美空は振り返った。すると一人の美少女と目が合う。
彼女は近くの教室から出て来た様子だった。
思わずそんな事を考える。
にこにこと目を細めて笑っている彼女に何と切り出そうか迷うが……少し首を傾けたと思うと、彼女の方から言ってくれた。
美空は首肯して答えた。
再び訊ねる彼女に少々照れ臭くなりながらも頷く。
彼女は見掛けだけではなく頭も良いのだろうと美空は認識した。
1人頷く彼女を静かに見つめる。しかし美空は次の瞬間衝撃の事実を聞く事になる。
思わず彼女の言葉を復唱して固まる。
彼女は微かに笑って言った。
彼女は図書室から丁度出て来た所だったらしい。
美空は驚愕して返す。彼女はもう堪えられないというように声を立てて笑いながら頷いた。
ショックを受けて再び固まる美空に彼女は何とか笑いを引っ込めて言った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。