ヤンヤンが連れてきたのは
僕みたいな人間が入ることは1生で1度もなさそうな 洒落たバーだった。
入口は観葉植物が飾られ、それをオレンジのライトが照らしている。
そして壁には文字が。
ヤンヤンは慣れた様子で店に入る。
これ、ヤンヤンがちゃんとした服装の方がいい、って言ってた理由がわかったかも。
そりゃあこんなお洒落なバーにスウェットみたいな服装で来れるわけがない。
店内は薄暗い雰囲気で ゆったりとしたバックミュージックが余計僕を縮こませる。
目立たないようにきょろ、と店内を見回す。
本当に場違いなんじゃないのか、不安になる。
ヤンヤンはまっすぐにカウンターに向かう。
僕もそれについて行き、ヤンヤンの隣に座る。
本当にロンジュンいたんだ…
別人のようにキリッとしているロンジュンから 視線が外せない。
あなたは見蕩れるように ロンジュンをじっくりと観察する。
シワひとつないシャツにきっちりとボタンが閉められた黒いベスト。
手にはトレシーとカクテルグラスがあり、それを手際よく拭いている。
ロンジュンは仕事だからか ヤンヤンにさえ丁寧な言葉を遣っている。
そんなロンジュンにつられ、あなたも敬語を遣う。
ヤンヤンはその姿を見て楽しそうに笑うだけだ。
声のボリュームを抑えて話しているあいだも
ロンジュンは丁寧な手つきでカクテルを作る。
カクテルグラスには 赤みがかったオレンジの液体が注がれる。
そしてそれをヤンヤンの前に差し出す。
ロンジュンはすぐに作業に戻り、今度は僕のカクテルらしきものを作ってくれる。
すぐにそのカクテルは完成し、グラスには青いカクテルが注がれる。
コリンズグラスに注がれた爽やかな海のような青色のカクテル。
僕の好きな青色で出来たカクテルは見ているだけで気分が良くなる。
1口飲むと、甘すぎないフルーティーな味が口いっぱいに広がる。
思わずそんな言葉が漏れる。
するとロンジュンはにっこりと笑みを浮かべ
と落ち着きのある声で言う。
しばらく僕達はお酒を楽しむ。
黙ってカクテルグラスを拭いていたロンジュンは、
最後のカクテルグラスを吹き終えると
カウンターの中から上半身を僕たちの方に近づき、
と、僕たちだけに聞こえるような声で 囁いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。