第16話

十五
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2021/02/23 12:32
逃がしてくれた日から日向はしょっちゅう廃寺に来た
私と同じように寝てるだけ、気が済んだら帰る
気が付いたら毎日会ってる
だけど言葉は交わさない
話したとしても挨拶くらい
そんなある日だった
日向は血だらけで廃寺に来た
貴方
…血の匂い
日向紀久
あぁ?ほっとけ
貴方
喧嘩?
日向紀久
だったらなんだ
貴方
手当てしようか
日向紀久
ほっとけって言ってんだろ
そう日向が言った途端、私は日向に押し倒された
私に馬乗りになる日向
これは、完全に理性切れてるな
何したんだよ相手側
日向紀久
殺されてぇか
貴方
殺せよ
知ってるから、出来ないって
日向紀久
っ…
貴方
殺したいんだろ、殺せよ
前髪から見える怒りと戸惑いで揺れている目
腕を掴んでいる手にはどんどん力が入る
日向紀久
……ッチ
私の顔の横を殴る日向
貴方
なに
日向紀久
出来ねぇって分かってたのか
貴方
分かってたよ
日向紀久
なんで分かった
貴方
なんとなく出来ないだろうなって
日向紀久
なんとなくで殺せって言ったのか
貴方
うん
日向紀久
バカだな
貴方
だけど
貴方
少しだけやるとは思ってた
日向紀久
あぁ?
貴方
首絞めるだろうなって少しだけ
日向紀久
……
貴方
私くらい日向は
簡単に殺せるから
日向紀久
殺さねぇよ、てめぇだけはな
貴方
ふーん
貴方
てかそろそろ腕痛い
日向紀久
ん、
日向は私からゆっくり離れた、だけど
腕だけは離さなかった
赤くなっている私の腕は
貴方
なに
日向紀久
別に
そのまま離すことなく
黙って、外を眺めた

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