第2話

クリスマスイブのもやもやと後悔
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2023/01/02 13:59
クリスマスイブのもやもやと後悔
ガチャ
「おかえりー」
ドアの開いた音で、俺が帰ってきたことがわかった母さんの声がした。
「おかえり、[シュガー]。」
リビングにつながる扉から顔を出したのは、いつもはこの時間にいないはずの父さんだった。
「父さん!ただいま」
父さんと一緒にリビングに行く。
「父さんが今日早く帰ってきたのは、クリスマスイブだから?」
「もちろん!クリスマスは家族で過ごすのが一番だろ?」
嬉しそうな笑顔で父さんは言った。
「うん、そうだね」
そんな父さんを見て、俺も嬉しくなった。
「ほらシュガー、手洗って」
「あ、うん」
スクールバッグをテーブルに置いて、俺は手を洗いに行った。
手を洗いながらも、俺の心の中には突っかかっているものがあった。
「宿題、やってくる」
濡れた手を拭きながら、少しでも気を紛らわそうと、そう言った。
「頑張ってね!夕食ができたら呼ぶからね」
「はーい」
スクールバッグを乱暴に取り、勢いよく階段を駆け上がった。

「クソッ、こういうときに限って宿題が少ないんだよなぁ…」
部屋で一人宿題に励みながら、先生が今日はクリスマスだからと宿題を減らしていたのを思い出した。
あっという間に宿題が終わってしまい、考えたくなくても考えてしまう…。昼休みにクラスメイトが言っていたことを。

―――「わ~クリスマスだね~」
  「家に帰って、明日の朝目が覚めたらサンタさんからのプレゼントが枕元に置いてあるんだよ!!」
  「楽しみだな~」
  「おいおい、お前ら。まさか信じてんのか?サンタのこと」
  「え?もちろんだよ。それに、信じるも何もサンタさんはいるよ?」
  「ははっ、笑える。いる訳ねぇだろ?母ちゃんと父ちゃんが俺たちが寝ている間にこっそり置いてるんだよ!」
  「なんでそんなことが言えるのさ!」
  「見たからだよ」
  「…え?」
  「俺、去年のクリスマスに寝たふりしてたんだ。そしたら、母ちゃんがプレゼントを置いて行ったんだ!!」
  「そんな…」
  「サンタクロースなんて、ただの子ども騙しに過ぎないんだよ!!」―――

「サンタさんは、いる…よね?」
不安で胸がいっぱいになり、天井を見上げながら呟いた。
「シュガー!夜ご飯できたよー!!」
母さんの声で飛び起き、時計を見た。気付けばもういい時間だった。色んなことを考えていたからか、かなり時間が経っていた。
「はーい、今行くー!」
階段を下りていくと、テーブルの上には豪華な料理が並べられていた。
「母さん、気合い入り過ぎちゃった!」
「いやー、食べきれるかな?」
お皿を持ちながらはにかむ母さんと、テーブルを見下ろして両手を腰に置く父さん。そんな二人を見ていたら、この特別な日が楽しみになってきた。
「ふふっ、食べきれるよ!お腹空いた~」
「そうだな!ご飯の後はショートケーキもあるからな!」
「わーい!!」
「よしっ、食べよ!」
三人で食卓を囲む。
「「「いただきま~す!」」」
クリスマスは素敵だ。ロマンチックで、美しくて、いつもとは一味違う。
美味しく食べていたのに、これからケーキというときにまたふと、思い出してしまった。
「どうしたの?シュガー」
母さんに顔を覗き込まれた。
「あっ、ううん。なんでもない。」
今そのことを話してしまったら、この楽しいムードを台無しにしてしまう気がして、言えなかった。
「なんでもないような顔には見えないけどな」
それなのに、父さんにそんなことを言われてしまえば、言うしかなくなる。
俺は俯いたまま、ゆっくりと口を開いた。
「サンタさんって、本当にいるの…?」
二人が息を呑んだのがわかった。
「今日、学校でクラスの子が言ってたんだ。…その、去年のクリスマスでプレゼントを置きに来るお母さんを見たって。」
「…それは、本当なの?」
「うん」
「その子、嘘をついたんじゃない?」
「嘘をついているようには見えなかった。」
二人はなぜか、切なそうな顔をした。
「ねえ、嘘だよね?サンタさんはいるよね?」
「ああ、ちゃんといるさ」
「そうよ。私たちがサンタさんにプレゼントをお願いしているから、シュガーの元にはプレゼントが届くのよ?」
「そう、だよね…サンタさん、いるよね」
俺がそう言うと、二人は安心したような顔になった。…なんで?
「…嘘、なんだ。」
「え?」
「母さんも、父さんも嘘ついてるんだ!サンタさんはいるって、嘘吹き込んで騙してるんだ!!」
「シュガー?」
「そんなこと、一言も言ってないじゃないか。どうしたんだ、シュガー。」
「やめて!…もういい!!」
俺は勢いよくリビングから飛び出した。
「シュガー!!」
俺の後を追って出てきた父さんの方を振り返り、鋭い目つきで睨みつけた。
「絶対、ついてこないで!」
父さんはピクリと体を震わせ、それから固まったみたいに動かなくなった。
俺は力強く、踏みしめながら階段を上った。

バタン

「…どうしよう」
扉に背をつけ、ずるずると座り込んだ。ついカッとなって、怒鳴り散らしてしまった。本当はあんなこと、思ってないのに。父さんと母さん、怒るかな…。どうしよう。俺、あんなこと言っちゃったから、絶対クリスマスプレゼントもらえないよね。
「ううっ…」
涙が込み上げてきた。情けない。こんな自分が恥ずかしくて、後悔だけが残った。

ガラガラ

突然窓の開く音がして、顔を上げた先には―
「よう、坊主。何泣いてんだよ」

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