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第1話

プロローグ
310
2023/01/02 12:41
プロローグ
「ママとパパは嘘をついている!!」
今日は、全国の子供たちが待ち侘びていたクリスマスイブ。外では初雪が降り積もり、ホワイトクリスマスとなっていた。
そんな凍えるほど寒い家の中で、[キロ・マグリー]の怒号が響いた。
「そんなことないわ!サンタさんは本当にいるのよ?」
「またママは嘘をつく!」
息子のキロは十歳で、学校の友達に聞いたとかなんとかでサンタクロースはいないんだと信じ切ってしまっている。
「パパも何か言ってよ!」
キロが鋭い目つきで睨みつけてくる。それでも俺は黙っていた。今何か言ったところで、無駄なことはわかっている。
「もういい!!」
「キロ!!」
荒々しい音を立てて、キロは二階に行ってしまった。
「大丈夫だ。何人かに一人は通る道だ。」
「でも…」
「ちょっと行ってくる」
妻にそう言い残し、俺はゆっくりと階段を上りだした。
コンコン
ノックをして、すすり泣く声の聞こえる扉の向こうに話しかける。
「キロ、入って良いか?」
「ううん。…ダ、ダメ。」
「ダメかぁ」
予想していた返答に、めげずに話を続ける。
「でもな、キロ。今のままサンタさんを疑っていたら、キロの元にサンタさんは来てくれないぞ?」
「っ…」
うろたえているのがわかった。
「そのことを心配していたんじゃないか?」
「うっ…そんなこと、ないし」
わかりやすい奴だ、図星だろう。自分もそうだったから。
「入れてくれないか?面白い話を聞かせてやる。」
「面白い話…?……今は聞かなくていい。」
「今聞かないと、損すると思うぞ?」
「べ、別にいい。」
「そうか?…実を言うとな、パパもサンタさんなんていないって思ったことがあったんだ。」
「パパも…?」
「ああ。でも、いるってわかった」
「どうして?」
「それは、ここを開けてくれないと話してやれないなぁ」
「…いじわる。」
ゆっくりと、扉が開いた。扉の先に立っていたキロは、目尻を赤くして服の袖を濡らしていた。
「よし、入るぞ」
キロのベッドに腰を下ろし、隣にキロを座らせた。
「じゃあ、話をしようか。これは、パパがキロみたいにサンタさんなんかいないんだって、意地を張っていた九歳の頃の話だ。」

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