《みく》
私は顔を両手で覆う。
涙が止まらない。
熱い感情がどんどん溢れてくる。
私の中でバラバラだったパズルのピースがすべてはまった。
そうだったんだ……
そうだったんだね……海人。
涙が溢れる。
頬を伝った涙は、雫となってポタポタと落ちていく。
私と海人は、ずっと前に会ってたんだね。
話してたんだね。
遊んでたんだね。
私の名前を呼んでくれてたんだね。
海人のお母さんの話を聞いて、思い出した。
小さい頃……よく遊んでいた男の子。
小さくて泣き虫で……。
いつも、私の名前を呼んで、私についてきていた……。
バカ……。
海人のバカ。
何で……そんな、小さすぎて忘れちゃうような思い出……覚えてるのよ。
私は……何にもしてないのに……。
海人と遊ぶことぐらいしか……してないのに。
何で……
ずっと覚えてるの?
ずっと想っていてくれるの?
ずっと追いかけてきてくれるの?
何で……
私なんかのことを……
何で……
「最後の願い」が私だったの?
海人……海人……
海人の最後の思い。
そこに……すべての答えがあるなら_____
私は腕で涙を振り払い、駆け出した。
勢いよく、霊安室の扉を開ける。
そして、薄暗い廊下へ走り出した。
海人……海人……
私は海人の最後の思いを聞かなきゃ。
それが……きっと。
私が最後にできる、唯一のことだから。
愛音ちゃん……どこ?
さっき怒らせてしまったから、会ってくれるかはわからない。
それでも行かなきゃ。
海人……。
待っててね。
私は走る。
何度か看護師さんに怒られそうになったけど、無視して走った。
今は海人が大事だから。
愛音ちゃん……どこ?
階段を駆け上がり、すべてのフロアを見た。
コンビニや待合室……
どこにもいない。
残るのは……
この病院は、屋上が空中庭園のようになっていて。
患者さんたちがくつろげるようになっている。
もしかしたら……
私は階段を駆け上がる。
エレベーターを使ってもよかったけど、少しでも動いていないと落ち着かなかった。
息を切らしながら階段を上がる。
そして、屋上のドアのドアノブに手をかける。
ギィ……
一気に風が吹く。
私の髪がふわっと靡く。
私が目を見開いた先には……
月明かりに照らされた、愛音ちゃんがいた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。