第135話

19,733
2019/05/03 08:40


《光》


私は校舎にもたれかかって、『ある人』を待っていた。

空を見る。

薄くオレンジがかった空。

もう……文化祭も終わりだ。

結局、何もできなかったな。

あなたといられたのは、ほんの少しだったね。

一緒にいたかったな。

この瞬間も、これからも。

____でも、あなたとはあと少ししかいられない。

私が選ばれないことはわかっているから。

だから……



コツコツ……




海人
なに……光?


伝えるんだ。



私の想いを。
ちゃんと来てくれたんだね
海人
約束破るような酷い奴だと思ってたのか
ウソウソ(笑)
来るってわかってた
海人……
私さ
海人のことがずっと好きなの
海人
…………っ!

海人が目を見開いて、明らかに驚いている。

まあ……そりゃー驚くよね。

ずっと一緒にいたいとこから告白されるなんて。 

海人の秘密を知っている私から告白されるなんて……。

でも、言うべきだと思ったの。

あなたを最後の最後に苦しめたくなかった。

あなたの最後は、あなたが愛した人と過ごしてほしい。

それは……私じゃないから。
ずっとだよ……
多分5歳くらいからかな
おとなしかった私にも話しかけてくれたよね
すごく嬉しくて……
私の初恋で

そうだよ……私の初恋なんだよ。


12年間の。
それで……
海人
ごめん
海人の声が私の言葉を遮った。  

ちゃんと、しっかりした声だった。
 
迷いなんてないって感じ。

……知ってた、わかってた。

そんなこと……わかってたよ。

海人は私を選んでくれない。

だって、私が海人を好きになった頃には……!!

もう……海人は。

知ってて、理解していた。

それなのに……何で。

こんなに胸が痛いの……?

でも、強がらなきゃ。

海人に心配なんてかけたくない。

私は意地っ張りだから。

あなたの前では、いつでも笑顔でいたいの。



知ってたよ、わかってた
私が伝えたかっただけなの
海人
光……
せっかくの文化祭だから、青春ぽいことしてみたかったの!
海人が悲しそうな顔してる。

そんな顔しないでよ。

私は……大丈夫だよ。

だから……
今すぐ……みくちゃんのところに行って
海人
な……んで
海人がいるべきなのは、私のそばじゃないでしょ
もう……ないんだよ?
文化祭もこれからも……終わっちゃうよ?
海人
光……
私なら、大丈夫だから

私は精一杯の笑顔を海人に向ける。
だから……行って
そして、海人の背中を押す。

速くここからいなくなってよ。

みくちゃんのところへ行って。

速く行ってくれないと







……泣き顔見られちゃうもん。
海人
本当に……ありがとう、光
お礼なんていいから、速く
海人
うん

海人はうなずくと、駆け出した。

振り返らず、真っ直ぐに。

それでいい……あなたはそうじゃないと。

私が好きになったあなたはそんな人だったから。





……意外と平気だと思ってたんだけどな。
フッ……んっ…
ずっと耐えていた涙が溢れてきた。

辛かった苦しかった……。

あなたが好きだったから。

大好きだったから。

もう……私は……





ハル
おいっ……!
ハ……ル?
……見てたの?
ハル
悪い……
バカ……なんでこんな時に。
 
いつも意地悪で、からかってきて……

まるで海人とは正反対。

ハルのことなんて……
ハル
泣くなよ……

………
こんな時だけ……呼ぶのはずるいって……
ハル
泣いていいよ
拒めなかった。

……私が拒まなかったんだ。

私は広げられたハルの腕に抱かれた。
 
すごく温かかった。

今日、初めて感じたぬくもりだった。
うわ〜っ…グズっ…


私は声を上げて泣いた。


ハルはずっと抱きしめてくれていた。

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