私とお兄ちゃんは今までのことを全て話した。
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話し終わったあと、お母さんが静かに呟いた。
私もお兄ちゃんも黙っている。
まさか、お母さんに話すことになるとは思わなかったな……。
自分の……まだ高校生の息子と娘がセックスしたなんて、ありえないよ。
怒られる。
というより……
見捨てられるかな?
お母さんが急に口を開いた。
お母さんの仕事は助産師。
出産を助けたり、妊婦さんの検査をしたりするの。
私も一度、お母さんの忘れ物を届けに病院へ行ったことがあった。
ちょうど玄関に退院する家族たちがいて。
大事に、でもしっかり赤ちゃんを抱っこしている父親と。
泣きながら、お母さんと握手している母親がいた。
お母さんも家族もみんな笑ってて。
すごく……素敵だった。
私は『命』なんて……考えた?
一度妊娠したかもと思ったときがあったけど。
そのときに一番に考えたのは自分のことだった。
周りに変な目で見られる……学校はどうしよう……父親は?……とか。
赤ちゃんの命なんて、考えなかった。
私も泣いたな……。
すごく怖かった。
自分で、赤ちゃんなんて大きすぎる現実は抱えきれないと思った。
命の重さ……。
そっか……。
赤ちゃんには何も罪はない。
ただ、ちょっとした私達の欲求で勝手につくられる。
そして、命をおとす。
私達が殺しているようなものじゃない。
私達だって、命の大切さなんてわかってる。
何度も何度も聞いてきた。
でも、忘れて無責任に命をつくる。
子どもは命を知らなさすぎる。
私達は無責任に命をつくる。
大人は命を利用する。
この世界で命って何なんだろう?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!