《兄》
ハァ……ハァ……。
息がきれる。
ずっと走った。
走って走って走って。
服も髪も乱れまくって。
汗も垂れてきて。
必死で探した。
みくが行きそうなところ。
図書館……学校……雑貨屋……。
でも何処にもいない。
みく、お願い出てこいよ!
みくがいないと……みくがいなくなったら……。
……!!!
自分で言いかけて辞めた。
これは……この言葉だけは絶対に言ってはいけない。
世界で俺だけが言えない言葉。
どれだけ願っても言えない。
でも屋上や家で感じた感情とみくがいなくなったらという感情が、この言葉にはぴったり当てはまった。
絶対見つけてやる!
俺はまた走り出す。
もう夕方が終わる。
早くしないと……。
暗い暗い夜がやってくる。
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あれからもっと広い範囲も探したけどみくはいなかった。
みくが怖がってたらどうしよう……。
事件に巻き込まれていたら……。
でもこんなに探してもいないんだし。
本当に……。
俺があの時、何も言わなかったから。
すぐにみくを探しに行かなかったから。
というか、もともと彼女なんかつくらなかったら……。
目の前には彼女がいた。
綺麗にまとめていた髪は乱れていて。
ニーハイソックスは足首まで落ちていて。
顔なんか真っ赤で。
ひと目でわかった。
ーー彼女は走って探してくれてたんだ。
よかった……
よかったよかった……
みくが無事だった。
家に帰ってる……。
本当によかった。
彼女は風になびく髪を押さえながら言った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。