私と海人は放課後の理科準備室にいた。
今日は綾瀬先生は出張みたいで。
理科準備室には、私と海人の二人きり。
……最近二人きりは増えてきたけど、やっぱり慣れない。
いつでもドキドキしてる……。
私はロッカーからほうきを出す。
そして、海人に渡そうと振り向いた____
私は目を見開く。
目の前に……本当の目の前に海人の整った顔がある。
えっ……えええ!!!???
あっ……えっ!
だって……これって
キス……だよね。
唇に優しい感触がする。
そして、離れた。
私は唇を軽く触る。
やっぱり……キスだよね……。
海人と付き合って2週間ぐらいがたった。
だけど、あのプールでの告白以来、キスはもちろん、手を繋いだこともなかった。
私は海人の彼女になれただけで幸せだったけど……。
海人は首の後ろに手を回しながら、そっぽを向いて言う。
今日は11月2日。
私の誕生日。
文化祭や海人と付き合い始めたとかで忙しくて、すっかり忘れてた。
しかも、もうこの年齢になるといちいちお祝いなんてしないし。
私の……
私なんかの誕生日を。
自分でも忘れるくらい、別に特別なんかじゃないのに。
海人は……覚えててくれたんだ。
私は言われたとおり手を出す。
海人がポケットに手を入れ、何かを出す。
シャラ……
私の腕で優しく揺れる。
私はブレスレットを見つめる。
ハートの形をした鍵がついている。
すごく可愛い……。
ねぇ……
海人はどんな気持ちで選んでくれたのかな?
たくさん迷って、私に合いそうなのを買ったのかな?
そして今。
こんな形でくれるなんて……
本当に、海人ってバカだな……。
えええーー!!!
私の顔が海人の胸に押し付けられてる。
海人の手が私の頭と背中に回ってて。
海人の匂いがすぐ近くで感じる。
……抱きしめられてる。
私は下を向いて、小さな声で言う。
恥ずかしくって、これが精一杯だった。
でも、海人は全てをわかっている感じで
と、うなずいてくれた。
私は幸せだな。
こんなに嬉しい誕生日は初めてだった。
友達……彼氏にお祝いされるのは初めてで。
こんなに……嬉しいんだね。
誕生日はずっと自分が生きていることを実感させられる最悪な日。
私が生まれてしまったことが証明される日。
……だったのに。
海人が変えてくれたんだ。
最高の誕生日に。
______ありがとう
海人の腕の中はいつでも温かい。
私が海人の背中に手を回したとき、小さな声が聞こえた。
“生まれてきてくれてありがとう”
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!