私は妊娠検査薬を使った。
妊娠はしていなかった。
よかった、よかった、よかった……‼
妊娠したらどうしようって、すごく怖かった。
不安で。
しかも相手が先生で。
一人で抱えるのがとても怖かった。
私は泣いてしまった。
緊張の糸が切れた。
涙が次々に溢れてくる。
私は子どもみたいに声を上げて泣いた。
海人の困った声が聞こえる。
海人の「大丈夫」は不思議。
とても、安心するの。
たった5文字でここまで人を安心させるなんて、不思議ね。
何で、妊娠したかもって聞いたときひかなかったの?
何で、私の頭をなでてくれたの?
何で、走って妊娠検査薬を買ってきてくれたの?
何で、手を握ってくれたの?
何で……私なんかのことを
こんな汚れた……
未来なんてない私のことなんかを……
でも
こんなに心を込めて言った「ありがとう」は初めてだった。
海人が何でこんなにしてくれたのか、わからない。
だけど、すごく嬉しかった。
本当に嬉しかったの。
海人が近づいてくる。
海人の、あの暖かい手が近づいてきたとおもったら、涙に触れた。
海人の手によって涙がふかれた。
海人が歩いていく。
私は海人のガッチリとした大きな背中を見つめる。
ドキンドキン……
いつも、冷たいくせに……。
たまに、優しいんだ。
私は海人を追いかける。
学校。
教室。
海人の青色の髪を夕日が静かに照らしていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!