第194話

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2019/08/27 11:00


私はいつもの通学路を歩く。

あのカーブミラーもあの柿の木も何も変わっていない。

私たちは変わっても、変わらない風景がある。

そう思うと、どこか安心した。
みく
あっ……

ここは、海人と私が別れるT字路。

いつも、このT字路が見えるたびに嫌だったな。

海人と手を離さないといけなかったから。

私は少し立ち止まったあと、また足を動かした。





今日は登校日ではなかった。

まだ冬休み中だった。

でも、なんだかすごく学校に行きたくなった。

ずっと行っていなかったから。

多分、部活があるから学校は開いているはず。

たくさんの思い出がつまっている学校に行きたくなった。

今ならもう、泣かないはずだから……。






____________________




いつもの通学路を歩き、学校についた。

レンガ道をまっすぐ歩き、玄関に行く。

まだ冷たい風が吹き込んでいた。

上靴は持ってきていなかったから、靴を脱いで靴下のまま廊下を歩く。

学校内はしんと静まりかえっていた。

遠くから、部活生の掛け声が聞こえる。

だけど、校舎内には誰もいないみたいで、私だけの空間だった。

私は廊下を進み、自分の教室に行った。







教室内は、がらんとしていて殺風景だった。

私は6月のときの1番後ろの席に座る。

そして、斜め前を見る。

もちろん誰も座っていない。

だけど、目を閉じると見える。

海人が転校してきたとき、私と海人はこの席だったね。

海人が助けてくれたのも、この教室だった。

夕日が差し込むオレンジの教室で。

海人は手を握ってくれた。

あのとき、本当はすごくドキドキしてたんだよ。

この教室でメイド喫茶もしたな。

文化祭は準備のときから楽しかったな。

私はしばらく教室を見渡したあと、そっとドアを閉めた。





その後は順順にいろいろな場所を見ていった。

理科準備室、中庭、プール、体育倉庫、テニスコート……

海人との思い出がある場所を見るたびに、いろいろなことを思い出した。

あのとき海人はこんな話してたな、あのときはめっちゃ緊張したな……。

思ったよりも海人との思い出があって、私の胸を苦しくさせた。








そして最後に。

私は階段を登る。

一段一段、登っていく。

そして、表れた重いドアに手をかけて、

思いっきり開けた。







そこに表れた青い空。

私の学校の屋上。

太陽の光もあって、屋上は暖かかった。

私は屋上の柵に捕まり、学校を見下ろす。




そのとき、ふと屋上で先生とセックスをしたことを思い出した。

みんなに見えるかもしれないって、ヒヤヒヤしながらシたっけ。

……あれ?

待って……

違うと思う……

そんなはず……

…………でも


みく
あ……れ……?


気づいたら、涙が溢れていた。

一度頭を横切った考えはなかなか消えてくれない。

そんなはずない……。

だ……けど。









私にとって学校はセックスをする場所だった。

他に楽しみなんてない。

休み時間はいつも一人で。

教室にも学校にも、味方なんて誰一人としていない。

学校はつまらなくて、戦場だった。  

いつも学校に行きたくなかった。

そんな地獄で……。







先輩とセックスをした中庭

_____海人と出会った中庭





ハルとセックスをした教室

_____海人が助けてくれた教室





先生とセックスをした屋上

_____海人が抱きしめてくれた屋上





お兄ちゃんとセックスをしたプール

_____海人に告白したプール





さくやとセックスした体育倉庫

_____海人とハルの告白を応援した体育倉庫









こんなのただの偶然だよ。

偶然、たまたま……。

だけど、一度思っちゃうと消えなくて。

もしかして、海人は……。








学校を思い出の場所に変えてくれた?










私が大人になって、高校時代を思い出したとき。

高校に遊びに来たとき。

学校をセックスをした場所として思い出さないように。

思い出を、書き換えてくれたの……?








今となってはわからない。

海人が死んだ今、その答えを知る人は誰一人としていない。

きっと、一生謎なままだろう。

それでも……。

 











この



学校で……



海人と過ごした日々を絶対忘れない。


みく
ありがとう


私は泣き笑いで空に向かって呟いた。

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