第180話

海人
15,538
2019/08/10 04:13


《海人》



俺の余命は3年。

その事実を突きつけられた瞬間。

もうどうでもよくなった。

これからどう頑張ろうと。

どうせ……3年後にはすべて消えるんだ。

何事もなかったかのように……全部。

それなら、何をしたって無駄じゃないか。

意味なんてない。

母さんと先生の会話を聞いた日から、俺は笑わなくなった。

笑えなくなったんだ。

暗くなったし、何もかも投げ出すようになった。

どこかで薄々感じていた。

母さんも父さんも、姉ちゃんの愛音より俺を甘やかしていた。

母さんも父さんも俺にいろいろなものをくれるけど。

だけどそれは……俺が死ぬからで。

そう思うと、なんだかムカついてきて。

母さんたちがどこかに行こうと誘うたびに、俺はすべて断った。

俺が死ぬから、誘うんだろ?

俺が死ななかったら、別にこんなに誘わないんだろ?

同情なんていらない。

そんな薄っぺらい同情をするぐらいなら、俺に病気のことを教えろよ。

親なら子供の気持ちを少しは考えろよ。

もう、どうでもいいんだ。

こんな人生……嫌いだ。




____________________



そんな日々を過ごしていた。

俺は中学を卒業し、レベルの低い高校に入学した。

どうせ死ぬんだから、勉強なんてしたって意味がない。

それに……

身体に変化が起こり始めていた。

体力がなくなった気がするし、よく息切れする。

たまに、ものすごい吐き気に襲われたりもする。

これが……俺の病気か。

誰にも言わず、自室にこもって静かに耐える。

母さんには言いたくない。

誰にも言いたくない。

もう……嫌だ。

こんな人生。

早く……終わりたい。







高校生になったあたりから、家で母さんの辛そうな顔を見たくなくて、放課後は東京に遊びに行っていた。

賑やかな街は俺を消してくれる。

まるで、俺がここにいないみたいな感じがして居心地がよかった。

行く宛もないのに、ただブラブラする。

つまらない。

こんな人生。

早く……終われば……










??
ハル!今日も……行くの?



横断歩道で信号を待っていたときだった。

後ろから、鈴のようなコロコロした声が聞こえた。

なんだろう……この声。

聞いたことあるような……

俺はゆっくり振り向く。

俺は……この声を知っているはず。

誰だ……?








海人
(…………!?!?)


目を見開いた。

声が出なかった。

俺の後ろで、笑っている。

栗色のロングヘアーの女の子。

どこか懐かしい感じがする。

違う……と思う。

だって……会えるはず……。



信号が青に変わる。

大勢の人が一斉に歩き出す。

立ち尽くしている俺は、どんどん抜かされる。

俺の後ろの女の子も、隣の金髪の男と腕を組んで、俺を抜かしていく。





そんなはずない……。

俺の勘違いだ。

でも……もし……

会えるなら……。

「やくそく」が叶うのだとしたら……





海人
みくちゃん!


俺は叫んだ。

自分でもダサいのはわかっていた。

東京のど真ん中。

たくさんの人が行き交う中、俺は叫んだ。




??
……?


俺を抜かしていった、栗色のロングヘアーの女の子が一瞬振り向いた。

俺と目が合う。

俺は慌てて目をそらした。

女の子もすぐに前を向いて歩き出す。

俺たちの距離はどんどん離れる。

それでも、俺の心臓はドクドクとなっていた。

そうだ……

俺はまだ生きてる。

俺は高鳴る心臓に手を当てる。

俺には……まだやり残したことがある。

やっと会えた、忘れられない女の子。

もう離したりなんかしない。

やっと見つけた……。

俺の生きる意味を_____

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