私は『恋』をなめてたの。
私は鈍感じゃないから。
海人が私のことを見てたのも。
海人が私に笑いかけてくれてたのも。
全部知ってた。
海人にとって、一番仲の良い女子は私だと思ってた。
だって、実際そうだったもん。
二人で何度もお弁当食べたし。
放課後遊びにも行ったよ。
何かペアになることがあったら、必ず私と海人だった。
ずっと『二人』だと思ってた。
だけど……
"私は海人とでいいよね?"
"海人……私達も帰ろう?"
私と海人だったのに。
いつのまにか……
光ちゃんと海人になっていた。
鈍感だったら、よかったのに。
それなら……そんなこと
気づかなかったのに。
私は……何も出来ないよ。
光ちゃんはいい子だもん。
こんな私にも優しく笑いかけてくれた。
二人でおそろいのものを買った。
光ちゃんが側にいてくれて、どれだけ嬉しかったか。
私は……『友達』がほしかった。
私には海人という、大切な『友達』が出来たよ。
ハルもさくやも大切な『友達』。
みんな大好きで私が欲しかったもの。
だけど……
もっと欲しかったものがあったの。
ーー女の子の友達。
"いなくなればいいのに"
女の子にそう言われたときから。
私は、普通の女の子にはなれないんだって思ってた。
女の子は容姿、地位、友人関係……
周りのものを見て人を判断するから。
優れた容姿を持っていて、研究者のパパと助産師のママがいて。
イケメンのお兄ちゃんがいて。
男の子にモテて。
そんな私を女の子は嫌っていた。
恨み、憎悪、嫉妬……。
たくさんの視線を向けられた。
みんながどうやっても手に入れられないものを、私は簡単に持っていたから。
羨ましいと思うのは、普通だと思う。
だけど……
私をちゃんと見てよ。
私はみんなが思っているより……
臆病だし。
太りやすいから、食事制限だってしてるんだよ。
どんなに勉強しても、成績は簡単に上がらないし。
パパはずっと海外にいて、一年に一度しか会えなくて。
ママも仕事で家にいないことが多いし。
何より……
『ひとり』がすごく怖い。
『ひとり』で過ごす夜は、すごく静かなんだよ。
夜の闇の中。
膝をかかえ、うずくまってる。
支えてくれる……頼れる人なんて、私にはいなかったから。
ママ……パパ、帰ってきてよ。
お兄ちゃん……今日もまたヤってるの?
セフレは……絶対来てくれない。
『友達』なんて……いない。
そんなとき、女の子の友達がいてくれたらどんなに心強かったか。
私が友達をつくる努力をしてないってことは知ってる。
怖いから、ずっと逃げてたの。
だけど……欲しいよ。
私の名前を呼んでくれた光ちゃん。
光ちゃんは私の『ヒカリ』だったんだよ。
私は……
光ちゃんを『友達』だと思ってて。
光ちゃんのことが……
大好きなんだよ。
海人が光ちゃんを選んだのなら。
光ちゃんが海人を選んだのなら。
私は……何もできない。
二人が大好きだから。
……ごめんね。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!