一瞬、時が止まった。
言葉の意味がわからなかった。
でもだんだん意識も戻ってきて。
「別れる」という意味がわかった。
彼女は目を伏せて言った。
長いまつ毛が目を覆う。
……!!!
どう言ったらいいのか。
「俺はお前が好きだよ」?
そう言って抱きしめてやれよ。
俺は彼氏だろ。
彼女にそんな……悲しそうな顔なんてさせたらダメだろ。
そんなことわかってる。
だけど……出来ないんだよ。
彼女に「好き」とは言えない……。
気づいてしまったから。
本当はずっとそうだったのかもしれない。
だって俺がいつも思い出す笑顔は
あいつだから……。
彼女は澄んだ声で言った。
彼女は驚いたような表情をした。
そして、綺麗な目を潤ませた。
彼女は目を閉じて、笑った。
すごく可愛かった。
そして俺の方を見た。
付き合っていたのに、ずっと一緒にいたのに、こんな風に真っ直ぐ見つめ合ったことはなかった気がする。
視線と視線が合わさる。
俺の初めての彼女。
彼女は一言そう言うと、俺に背を向け歩き出した。
風で髪がなびく。
彼女は真っ直ぐ歩いていた。
彼女は強い。
……ちがう。
俺は叫んだ。
俺の前を歩く彼女に。
彼女が振り返る。
すごく楽しかった。
一緒に帰るのも。弁当を食べるのも。
一緒にジェットコースターに乗って叫んだ。
一緒にテスト勉強をした。
キスもその先もしなかったけど……。
俺は彼女が……優菜が好きだったかもしれない。
俺には……わからないや。
彼女は下を向いていて表情はわからない。
バカって……。
名前呼んだらダメだったのかな?
ヤベ……。
俺と彼女の声が重なった。
彼女は俺の名前を呼んだ。
表情は相変わらずわからないけど、声は楽しそうだった。
俺は彼女の楽しそうな姿が好きだった。
忘れない。
ずっと……ずっと。
彼女は全然強くなんてないんだ。
涙もろくて不器用で……。
自分を出すのが苦手で……。
全部知ってた。
彼女は弱いんだよ。
俺が守ってあげなきゃいけなかったのに。
ごめん……。
でも、優菜は誰よりも優しいよ。
お前の名前にぴったりだな。
次は本当に別れて歩き出した。
優菜……楽しい時間をありがとう。
ーーバイバイ
ーーじゃあな
それぞれどんな思いで言ったのか。
きっともう、俺らの気持ちが交わり合うことはない。
俺の中には……一人だけだ。
早く会いたい。
このとき俺はやっと、自分の言葉で言うことができた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。