落ちてきた花びらにつられて、上を向く。
澄み切った「海色」の空に、何枚もの桜の花びらが舞っている。
花びらたちは風にのって、私達を祝福する。
ほのかに暖かい3月。
満開の桜。
私、春川みくは
仲間とともに3年間を過ごしたこの学校を
今日、卒業します______
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しんとした、張り詰めた空気の中。
担任の先生に名前を呼ばれた生徒から順に壇上に上がり、校長先生から卒業証書をもらう。
私も緊張をなんとか抑えながら、順番が来るのを待つ。
何度も練習したんだし、大丈夫よね。
私の隣のクラスのハルがはっきりと返事をし、壇上に登る。
そして、卒業証書を校長先生から受け取った。
ハルは卒業式でも金髪だった。
目立ってるけど……その方がハルらしい。
ハル。
かっこよくなったね。
私はまっすぐに前を向くハルを見て、そう思った。
出会ったときとは、全然違う。
今のハルが、私は好きだよ。
さくやがクールに返事をし、壇上に上がる。
そして、校長先生から卒業証書をもらう。
さくやは受験で、難関大学に合格した。
きっとこれから、もっと輝くんだろうな。
クールで冷静だけど、優しいさくやがずっと好きだからね。
これからも頑張れ。
私は思いっきり声を出して返事した。
と、とりあえず声が裏返らなくてよかった〜。
私は転ばないように気をつけながら、ゆっくりと壇上に上がる。
そして、校長先生から渡された卒業証書を受け取る。
私、ちゃんと卒業したよ。
どんなに辛いことがあっても、逃げなかったよ。
すてきな高校生活でした。
私は壇上を降りながら思う。
この学校に、「ありがとう」と______
光がしっかり前を見て、壇上に登る。
光の髪は、ずっと切っていないからか綺麗な黒髪ロングになっていた。
どこか大人っぽくなった光。
こんな私とずっと仲良くしてくれた。
光がいたから、毎日楽しかった。
くだらないことを言い合ったし、喧嘩もしたけど……。
それでも、私は光と友達でよかった。
優しくて優しくて優しい光が大好き。
これからも、ずっと「親友」でいようね。
そして
私は目をつむって、その名前を聞く。
何度も心の中で呼んでいたけど、他人の口からその名前を聞くのは久しぶりだった。
本当は呼ばれることのない名前。
……だけど。
海人にとっても、ここは大事な「学校」だから。
思い出のたくさんつまった場所だから。
卒業しないといけない。
もう私たちはここにいたらいけないんだよ。
羽ばたかなきゃ。
すぐ前に広がる世界へ。
海人が空の上から見ていたのかはわからない。
海人の名前が呼ばれた後も、式は何事もなく進み、そして終わった。
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みんなで桜の木の下で話す。
卒業式も終わり、クラスでのお別れ会も終わり、それでもなんだか帰る気にはなれなくて、こうしてみんなで話していた。
こうやって、みんなで話すことも少なくなるんだよな。
ハルと光はここに残るけど、私とさくやは県外に行く。
簡単に会うことはできなくなるんだろうな。
そう思うと、すごく寂しくなった。
急なことで私もさくやも驚く。
誰よりも驚いていたのは、もちろんハルだけど。
急な光の告白に、ハルは口をあんぐりあけて、固まった。
しばらくそうしていたけど、急に我に返ったように目をパチパチさせる。
そして、光の肩をガシッと掴む。
光がニコッと笑った。
綺麗な黒髪が揺れて、とても美しかった。
ハルはしばらく光を見つめたあと……。
ギュッ
光ちゃんを腕の中に抱きしめた。
私は泣きそうになった。
ハルの気持ちも光の気持ちも知っていたから。
やっと二人の想いが通じ合って、すごく嬉しかった。
何度もすれ違って。
それでも最後には、通じ合えた。
それって、すごくすてきなことだね。
私はさくやと笑いあった。
二人がいつまでも幸せでありますように。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。