第129話

先輩
24,948
2019/04/18 11:33

《先輩》



桜の舞う春。

今日は入学式。

俺は高校二年生。

新入部員を捕まえるために、友達と廊下を歩く。

本当は面倒臭いなー。

テニス部は定番だし、人気だから勧誘なんてしなくたって、入ってくれるのに。
友達
なあー大地
あの子、可愛くね?
先輩
どの子だよ……?
友達が指差す向こうに、一人の女子がいた。
先輩
……っ
一瞬、息が止まった。

廊下に一人たたずむ少女。

窓から吹き抜ける春風が、少女の長く艷やかな髪を靡かす。

大きく丸い瞳を、長いまつ毛が覆ってる。

白く陶器のような肌。

薄くピンク色に染まった唇。

……すげー。

こんな美少女がいたんだ。

スタイルもよく、制服が輝いて見える。

すごく可愛い。

今まで見た女子で、1番可愛いかもしれない。




だけど……

何だか、カナシイ。

この子は少しでも触れたら、壊れてしまうんじゃないか。

そんなことを本気で考えてしまうくらい。

俺には

脆く弱く悲しく

儚く見えたんだ。


____________________


入学式から数日が過ぎた。

あの美少女のことは、寝たらほとんど忘れた。

いつものように、髪をセットし。

学校に登校し、真面目に授業を受ける。

休み時間は、友達と当たり障りのない会話をし。

いつもと同じ一日が過ぎた。

俺は部活のバックとラケットを持ち、人通りのない廊下を通り、更衣室へ向かう。

いつものように部活に行く予定だった。

「あの子」に出会わなければ。
先輩
あ……
みく
えっ……
目があった。

透き通るようなブラックが俺を真っ直ぐに見つめる。

だけど……その目は潤んでいた。

この目……俺は見たことある。

その髪も肌も唇も。

そうだ……この子。

入学式で見た、美少女だ。

何で……こんな薄暗い廊下で泣いてるんだ?

いつもの俺なら、誰も見ていなかったら絶対助けたりしないだろう。

だけど……なんでかな。

気づけば俺は、美少女に話しかけていた。
先輩
どうした……?
みく
あっ……な、何でもないですっ!
小鳥の鳴き声みたいに、小さく高い声。
 
だけど、心地の良い声だった。

震えた声で、一生懸命否定する少女。

まあ、出会ったばかりの人に悩みなんて言わないか。

先輩
それじゃ
こんな子置いといて、早くテニスをしよう。
 
俺は少女の横を通り過ぎ、歩き出す。

きっと、もう二度と話すこともないだろう。

俺が助けなくたって……。







くそっ
先輩
あのさー
俺は後ろを振り返って、乱暴に言った。
先輩
テニスやってみない?
少女はビクッと体を動かす。

……やべ。

怖がらせたか?

俺だって、何でこんなこと出会ったばかりの女子に言ってるのかわかんねーよ。

だけど……

ほっとけないんだよ。
先輩
あっ、ほら!
体動かして気分転換とか……
みく
……はい
先輩
えっ?
ずっと下を向いていた少女が俺を見る。

大きな瞳が弧を描く。

頬が少しピンク色に染まる。

俺が始めてみた、彼女の笑顔だった。
みく
テニス……やってみたいです

毎日をただただ虚しく過ごしていた俺に。


一筋の光が差し込んだ。

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