第136話

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2019/05/04 03:28


《光》


私が海人を好きになったのは12年前。

海人も私も、5歳の小さな少年少女だった。

私のお母さんには兄弟が5人いて。

その一人が海人のお母さんだった。

つまり、私たちは立派な血の繋がった『いとこ』だった。




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私は小さい頃から、大人しくて物静かな女の子だった。

人見知りで、自分から話しかけるなんて絶対出来ないような子供だった。

だから、いとこ同士で集まった時には一人で本を読んでいた。

5人兄弟だから、いとこも多くて。

愛音
あっちで遊ぼうよー!
小さい頃から無邪気で天真爛漫な愛音ちゃんを中心に、みんなで楽しそうに遊んでた。

私はそれを横目で見ながら、静かに絵本を読む。

……本当は羨ましかった。

私もみんなと遊びたい。

でも、勇気が出ない。

だから……




海人
なに読んでるの?
えっ……!
絵本の上から急にひょこっと頭が現れた。

えっ……!な……なに!?

この髪の色……。

青っぽい深い海みたいな……。
か……いと君?
海人君は、愛音ちゃんの弟で……

少し小さめの背、くりっとした目

そして……素敵な笑顔

今まで海人君の顔をじっくり見ることはなかったから、じーっと見てしまった。
海人
どうかしたの?
あっ……!
な、なんでもないょ……
最後の方は小さくなって、聞こえなかったかもしれない。

それくらい、恥ずかしくて、パニックになっていた。

誰かと話すなんて……!

どうしようどうしよう……。

でも、海人君は私の不安なんて知らず、無邪気な顔で尋ねてくる。
海人
ねぇーねぇー
その絵本って面白いの?
お……面白いょ
海人
見せて見せてー!
海人君が私の横に座る。

肩も顔も全て触れているくらい、近かった。

小さかった私たちは、そんなこと全然気にしていなかったけど……。

海人君は私が広げている絵本を覗き込んでくる。
海人
読んでよー
ふえっ?
ム……リだょ
海人
じゃあ、僕が読むー
この頃は、自分のことを「僕」って読んでたんだよね。

海人君はブツブツと文字を読んでいく。

海人
クマ……さ、んは、もーり?へいくと%#@=
最後の方は何を言っているのかわからなかった。

簡単な文章を顔をしかめながら一生懸命読んでいる海人君。
んふふっ!
ちがうよ、ここは……
私は思わず笑ってしまった。
海人
ああああーー!!!
海人君は急に叫んだと思ったら、私を思いっきり指さした。

ななな……なに?!
海人
笑ったー!!
ヒカちゃん!
えっ!!
笑った?

ヒカちゃん?
海人
悲しそうだったから。
笑ってると、元気が出るんだよ
海人君はそう言って、ニカーッと笑った。

まるで、太陽のような笑顔。

小さな私はなんとなく、「海人君のこと好きだなあ」と思った。

このときは、これが恋なんてわかっていなかったけど。



それから、いとこ同士で集まったときは私と海人君で並んで絵本を読んだ。

仲良く、ずっと笑いながら。

いつしか、私はみんなで遊んでる愛音ちゃんたちを見ても、なんとも思わなくなった。

私の幸せな時間だったの。

海人君は私のことを「ヒカちゃん」って呼んでくれていた。
 
私の特別だった。

私は海人が好きだった。

私の初恋だった。





でも、幸せは長くは続かなかった。

私は中学生になったとき、ある秘密を知らされたんだ。




______海人は





秘密を知ったとき、絶望した。

何で何で……。

海人は私を救ってくれたの。

海人の笑顔がなくなるなんて……!

そんなの……。

私はその時から決めたの。



海人の幸せだけを願うって。



海人のことをずっと見ていた私なら、海人が何を望んでいるのかわかった。

海人のあんな顔……初めて見たんだよ。

だから、背中を押した。

海人……幸せになってね。

最後の最後まで。

海人なら大丈夫だよ。





私はね、海人のことが何より大切だけど。


それと同じくらい……






みくちゃんが好きなの。






だから、この想いはヒミツ。

いつか、ちゃんと過去に出来たとき、2人には話そうかな。

みくちゃんと……






ハル


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