第11話

つないだ手
81
2021/08/26 20:41





♫……♫



突然カレの携帯が鳴り出した。


「あかん!
もう出な、遅刻してまう」


お出かけアラームが新曲のヨーイドンて、オマエ……。
時計を見たら8時55分。
そうだ、10時に集合だった。


「話はまた後でしよな?」


せっかく仲直りできかけてるのに!

かわいそうなオレの分身。
おあずけだってさ。
仕方ないけど切ないなあ。


なのに、カレはそんなオレを見て笑うんだ。
むうっとする。
自分だって固くしてたじゃんか。
オレだけじゃないだろ?


そんなオレの顔を見て、カレはますます笑って、いきなりオレのシャツをまくって、左の乳首をキツく吸うから、アウッて声が出る。


「……なっ、なにすんだよっ!」


更にジンジンする尖りを舐めるから、腰に来る。
ホントやめて?
力が抜けて出かけらんなくなるから。


「あんまり可愛ええ顔するから、ボクのもんやて、印付けといた」


何だって?
見下ろすと、小さい実は固く赤く腫れて、そのすぐそばに、吸われたアザができてた。


オレ、大丈夫?
こんなんで仕事できる?






駅のコンビニで、おにぎり1個とお茶を買い、電車の中でムシャムシャ食べた。
オレは梅干し、カレは鮭。
ちょっと恥ずかしかった。
現場に行けばお昼はロケ弁があるけど、何時になるかわかんないし、それまで何も食べないわけにはいかないから。
早くタクシー使えるようになるといいな。


「そういや、あのアジの南蛮漬け……?」


て、カレを見上げると、カレは黙ってオレに笑いかける。
やっぱオレに作ってくれてたんだあ。
なのに、言わないで帰っちゃうんだもんなあ。




今日は雑誌のインタビューと撮影がある。
そろそろ新曲のプロモ週間も始まる。
忙しくなってくる。
夜、一緒にいられるかな?
明日の入りの時間次第だろうな。
オレもう一刻も早く仲直りたい。




いつもならカレはちゃんとオレの隣に来るのに、時々、ぐずぐずしてたなあ。

オレにとっては、カレが隣にいるのはもう当たり前だったから、カレがそんな風に、自分はまだ隣に立つにはふさわしくないんじゃないか、なんて葛藤してたなんて知らなかった。

昔の知り合いや、誰かと会えば、確かにカレは気を使ってオレの隣を明け渡してしまう。


良かった。
そんなカレの心配を知ることができて。
わかれば対処もできる。
オレたちはまだ始まったばっかりだから、こうして少しずつお互いを知って、揺るぎない関係にしていけばいい。
今はまだ不安定だけど、オレはもう手を離してやる気はないから。





メイクして、用意された衣装を着た。


普段なら何でも無いのに、ふと胸に何かが当たると、左の乳首に柔らかな快感が走る。
カレ、オレの体がこんなになってるの、知らないんだろ?

思わず睨んでしまった。

そしたらオレの視線に気付いてそばに来て、そっぽ向きながら、


「まだボクおる?」


て言う。
その可愛い言いかた!


「いるよ!
ちっさいオマエが居座ってる!
早くどっか行けばいいのに」


ははって爽やかに笑うからむかつく。


「ボクにもおるよ?
右肩噛まれてるから」


……!
そうだった!


「ごめん。
オロナインかなんか塗っとけば良かった」


「お互いさまやね」


なんか嬉しそう。
可愛いヤツ。


謎に幸せになってたら、撮影入りまーす、と鋭い声がかかる。
オレはカレの手を握って離さず、カメラの前に移動する。
カレは一瞬驚いた顔をしたけど、強くつないだこの手に、オレの気持ちが伝わってたらいいな。



離さないよ。
オレの隣はオマエだよ、って。









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