オーディションの勝ち組たちと同じ板の上でパフォーマンスをやることになった。
いつか、とは思っていたけど、こんなに早くそのチャンスが来るなんて思っていなかったから、すごく嬉しかった。
相手は優勝金メダルチーム。
オレたちは、決勝トーナメントに残れなかった、いわば3軍以下だ。
オレは決勝に残れはしたけど、当時YouTubeのチッケム再生回数も他の人に比べたら伸びなくて、敵わないなって言うのは、予想できてた。
ただ、数字には現れない熱があった。
ファンの人たちは、精一杯応援の声をあげてくれてたから、その熱量の高さは、ひしひしと伝わってたんだよ。
オレはオレでいいんだ、って思うことができたし、何の引け目を感じることもなく、誇りを持って最後の舞台に立つこともできた。
勝者にはなれなくても、全てをあきらめたりしなくてすんだ。
それにオレには、何よりも誰よりも大切で愛しい、きらめく才能が残った。
オレの直感が叫ぶ。
この4人なら絶対優勝!
何と闘ってんのかわからないけど、便宜的に勝つとか言っちゃってるけど、実は人生に勝ち負けなんか無いんだよな。
どの人生も勝ちなんだ。
自分が、負けた、って思わない限り。
オレは、オレたち4人は、オーディションの勝ち組たちと肩を並べて、そのうち追い越して、誰かを、できたらひとりでも多くの人を、慰めていけるようになっていくんだ。
そんなの、言葉にするまでもない当たり前のことで。
パフォーマンスの後で、特に仲良かった人たちと食事に行く事になった。
カレは従兄弟の結婚?があるからとかで参加しなかった。
残念だったけど、家族の行事じゃ仕方ないから、気にしなかった。
だけどその後も、オーディションメンバーが加わる食事には、参加しない。
3回も続いたらさすがに、偶然とは思えなくなる。
休みをもらえた日。
カレはオレのうちに来てた。
朝が強いカレに寝込みを襲われ、優しく愛し合ったあと、腹減ったなーって言い合った。
そういやこの前、日ぷ卒業メンバーと行った新橋の『天空焼肉』、すごく美味しかった。
カレだけ用があって参加できなかったから、食べさせてやりたかった。
眼下に都心のビル群を見ながら、懐石風に次々出てくる料理が上品で、寿司好きのカレも絶対気に入るよ。
オレはいつも、新しい所へ行ったり、変わったものを食べたりすると、カレに見せてやりたい、カレに食べさせたい、カレなら何て思うかな、喜ぶ顔が見たいな、って思う。
「1枚だけスキヤキが出てきて、溶いた卵で食べるんだけど、それがまた美味くて。
マジで、口の中でとけるんだよ。
アレはほんと、オマエに食べさせたかったよ」
オレはカレみたいに上手に食レポできないから悔しい。
カレは優しく微笑んでオレの話を聞いている。
「……オマエさぁ、なんでアイツらとのゴハン来ないの?」
「え?
用があったから?」
「それは知ってる。
オレが言ってんのは、避けられない用が続くのはなんでなんだ?ってこと」
カレは黙って首を傾げる。
なんて言うか考えてる。
「……偶然や」
「ホントだな?
じゃあ今から誰か呼び出して昼メシ……」
携帯を取り出したオレの手を握ってきたから、カレの顔を見る。
笑ってなくて真剣な顔つきに、脳のどこかで警鐘が鳴る。
「せっかくふたりきりになれた休みに、なんで?」
低い声。
怒りは感じない。
「なんで、って……休みだから、遊んでも夜があるし」
「あるんかな、夜」
どういう意味だ?
カレは見つめるオレから視線をそらした。
「話が尽きんくて、楽しゅうて、きっと別れ難くて」
カレはもうオレを見ない。
「すぐに、明日の為に寝なきゃならない時間になってまう。
せやからボクは遠慮しとく。
行くならひとりで行ってきぃや。
あ、他のメンバー誘ったらええやん?」
「オレはオマエといたいんだよ?」
オレの言葉にカレは笑った。
その顔が寂しそうで、ショックを受ける。
「せやな、わかるで。
ただボクが……」
待っても言葉は続かなかった。
「ボクが?
ボクが何?」
「……用思い出したから、今日は帰るわ。
また明日」
オレの体に触れることなく、もちろんキスもなく、視線を合わせないままカレは玄関に向かった。
「待てよ!
行くなよ?」
返事もなくカレは出て行く。
ドアが閉まる音に我に返った。
何が起きた?
オレは、Tシャツとハーフパンツを身につけ、追いかける。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!