結局、その日はもうカレからは連絡がなくて、オレは、家でカレについてサーチして過ごした。
おおかたは、カッコイイって、カレをメンバーに選んだ人最高(そうだろ、そうだろ?)って声ばかりだった。
そしてポツポツと否定的なものも見かけた。
けど。
こんなわずかな声を気にするかな?
オレたち、必ずアンチはいるじゃんか。
熱烈にいいと思ってくれる人がいたら、熱烈に嫌だって思う人は必ずいる。
少なくても、芸能を目指したいって思うヤツなら、そういう負の声に負けるかな?
しかもオレや、メンバーもいるのに?
オレたちに選ばれたのに?
最初の夜の積極的なカレと、何となくつながらない。
翌朝。
10時集合だったから、オレは頑張って7時にカレんちに行った。
9時には家を出るだろうから、7時なら、早起きのカレは起きるだろう。
オレがドアに貼ったメモは無い。
見たのに連絡して来ないなんて、冷たいヤツ!
呼び鈴を鳴らす。
少し待ってから、数回続けて鳴らした。
それでも出てこないから連打した。
ピンポンピンポン鳴らしてるうちにガチャって解錠する音がしてカレが出てくる。
「やかましーわ!」
明らかに寝起きで、ボサボサの髪と薄く生えたヒゲと……上半身裸だったから。
その男くささにドキっとする。
昨日からの飢えに突き動かされて、吸い寄せられるように手を伸ばしてしまった。
カレの裸の胸に触れた途端、そのなめらかな肌の感触に我慢がきかなくなる。
キスを求めてカレの頭をつかみ……。
「まだ歯ぁ」
磨いてないってんだろ。
そんなの知るか!
オレはカレをむさぼった。
起き抜けの、乾いたカレの口の感触に、オレの唾液がまぶされる。
もう他のことはどうでも良かった。
オレを放り出すのだけはやめてくれ。
こんなに。
こんなに一緒にいたいのに。
「ちょ、待って」
カレはオレを引き離すと開けっ放しだった玄関のドアを閉めた。
「中ぁ入って」
「なんだよ」
カレの冷静さに腹が立って、そしたら胸の中から感情が込み上げてきた。
「オレ……オレ、寂しかったんだぞ?
オマエと一緒にいた、くて……」
泣き出したオレに驚いた顔のオマエ。
「……ボクがおらんくても、仲良しがぎょうさんおるし、平気やろって思っとった。
昨日は朝にすることしたし、もうええんやろって」
ええええー?
どこに突っ込んでいいかわからない。
オレは腹がたって、腹が立って、カレの胸を殴ろうとゲンコツを振り上げた。
でも、殴る前にあっさり両手をつかまれてしまい、そのまま後ろに回される。
胸がそる。
顔が近い。
胸だけで暴れるけど、全然敵わない。
そういや、コイツ、ボクサーだったな。
かれは、チュッチュッて、オレの涙を吸いながら、あやすように優しく話す。
「あんな、これはボクの問題なんやけど……ボクまだ、あなたの隣におる自信が無いのや。
歌もダンスもまだまだやし、ゲームしても何しても勝てへんやろ?
他のメンバーに比べて、勝てるのは背ぇだけやから……」
何言ってんだ、コイツ。
自信がないとか、そんな理由でオレをひとりにすんのか?
オレは怒りで発狂しそうになった。
頭突きくらわそうと頭を振ってみたが、ヒョイと交わされる。
はずみで後ろにいましめられてる腕が痛み、肩が外れそうになる。
「腕いたい!」
「暴れるからや。
おとなしゅうしてや」
オレはカレの裸の肩に噛み付いた。
痛みに驚いて、オレをつかむ手の力がゆるみ、ようやく自由になる。
オレはカレをつかんでベッドに直行した。
どうしよう。
なんて言えばわかる?
ただでさえ怒りと欲望で思考が停止してる頭で、カレを口説ける自信がない。
オレは持ってたタオルで自分の顔を拭いた。
「コーヒー」
「は?」
「コーヒー淹れて!
そんでシャワー行くか、上になんか着て!」
きょとんとした顔。
可愛いんだよ、ちくしょお!
「じゃないと襲っちゃうだろ。
オレ、昨日あれからずっと、オマエが恋しくてたまらなかったんだから」
赤くなる余裕もなく必死に訴える。