テヒョンside
AM10:05
ちゅっ、
バタン、、
てぶくろ、手袋、、 あった、あっ
言っとくけど まだにやけてない。
にやける寸前で
表情筋に力を入れて思いとどまったところだ。
ウサギにもらったワインレッドの手袋。
ていうか 自分で買ったって言ってたけど
あいつ、、
買い物も出来るようになったのか?
明日は10日、接見の日。
幸せだからって言うだけ、、 それだけかもしれないけど
俺は言いしれぬ不安でいっぱい。
嫉妬、、ではなく どちらかというと苛立ち の方。
もうあいつと関わらなくていいのにって、
だけど1番は、
俺のウサギが傷ついたり、、悲しくなったり
しなけりゃいいなって。
俺から離れてる間に何回か接見した事は聞いてる。
だけどさ、
今は俺の所にいて、、だから
接見がすげー身近に感じる。
あの時は心配するだけしかできなかった。
でも今回は隣に、帰ってきた時 隣にいてあげられる。
それだけしか出来ないけど、
前みたいに
闇雲に心配するだけしか出来なかった俺よりはいい。
あいつの元気が出そうなもの。
ってなんだろ。
俺があげると喜ばないものはない気がする。
あ、これ思い上がりとかじゃなくてね?
あいつは誰に何を貰ったとしても喜ぶだろうから。
でも1番喜ばせたい。
だって夫なのだから。
そう、何を隠そう俺は夫なのだから。
今、俺の戸籍にあいつを入れたとして、、
防波堤になってるかもしれない
先生の効力はなくなる。
最悪の事態は考えたくないけど、
もし俺が考えうる最悪の事態に陥った時、
俺の戸籍にあいつがいるのは
正直あちらにとっては好都合。
なんせあちらの人身売買制度を
俺も利用しているわけだから。
そんな餌をわざわざ自分の手で撒くようなことは
したくない。
韓国で、どこの自治体でもいい。
それが認められれば
話は別。
ちゃんと愛し合って夫婦、として国が認めてくれれば
世間も俺の味方に、、 味方に? うーん、、
韓国の高裁が最近、
同性カップルのパートナーを国民健康保険の
被扶養者として認める判決を出した。
だけど
韓国のLGBTQ(性的少数者)の権利韓国政府は2007年、
差別禁止法案を初めて国会に提出。
だけど保守系キリスト教団体の抗議を受け、
性的指向を理由とした差別禁止条項を削除した上、
結局廃案になってる。
今もその法案は反発が強く成立には至ってない。
いくら若い世代がLGBTQだと騒いだって
未だ韓国国民の大半は同性愛には批判的だ。
憎たらしい義兄からウサギの戸籍を抜かないのは
それが一因でもある。
正直、現時点でこの国で同性婚のベストである
養子縁組。
貧困の差が著しかった韓国では養子縁組は
普通に行われてた。
でもそれは子供の将来性、やむおえぬ事由だから。
この国 韓国で未婚の母に対する当たりはきつい。
そして国からの補助も手薄で、、
あいつは未嫡子だから、
そのモデルケースに当てはまる。
だから先生の戸籍に入れたんだ。
同性婚を目的とした養子縁組は審査が厳しく
韓国憲法では男女の婚姻の権利は書かれているけれど
同性婚にまでは至ってないのが現状。
そしてそれが変わることは
非常に厳しい道のりだと言われてる。
でも、もしそれが可能だとして、、
俺は何言われてもかまわないし、
差別的な目で見られたとしても
どんとこい。
だけど俺のウサギは違う。
外の世界へ出るようになった俺のウサギが、
素性も知らない人からの何気ない言葉で
そんな、、
ウサギのことを何も知らない奴らに言われた些細な事で
俺のウサギが傷つくのは俺が堪らないんだ。
意思がなきゃ、、 その意思がウサギにある今、
法的に認められる事は重要じゃなくて、
俺が望むことはひとつだけ なんだよ。
PM2:45
ガチャ、、
ぺたぺたぺたっ!
明日は接見もあるし。
今日は出来るだけ隣にいてやりたい。
マルコの店 寄ってくるの忘れた。
何か買ってこようと思ってたのに、、
え、どうした?
まだ何もしてないのに
俯いて胸のとこをぎゅうぎゅう、
まだ何もしてないよな? 俺、、
ちゅっ、
これ、おかえり のじゃなくて、 おーじさまの、、
は? 飛び出したの? なにが?
外そうと首にかけたマフラーの両端を引っ張られて
口にちゅう された夫歴1週間ちょい の俺。
何が何だか、、 何だったの? 今の、
動物が顔の毛繕いをするみたいに
スウェットの袖で顔をさわさわ、もにょもにょ、、
あ、鍵開ける時にいつも下で
ポケットに入れて来ちゃうから、、
お土産なんかなくたって、
俺が手袋をしてるだけで
息を詰まらせて耳を真っ赤にしてくれる。
明日もその顔でいてほしい。
帰ってきた時 その顔でいてほしい。
俺がウサギに望む事は今も昔も変わらない。
普通じゃなかったお前だからこそ
普通に、 普通の幸せ。
ちゃんと食って、
ちゃんと寝て、
たまに笑ってくれたら それでいいんだ。
それが俺の隣ならもっといい。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。