第662話

むかし 冬の始まり
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2023/05/30 02:06




お姉ちゃんから連絡が来た。
ほんと久しぶりに。
新居に遊びに来ないかって、、

幸せそうな顔したお姉ちゃんが
私の知らないお家で笑ってた。
嫌いになったわけじゃない。
でも もう前みたいには出来ない気がした。

旦那さんもすごくいい人で
困ったことがあったら相談してねって、
家族だからって、そう言ってくれた。

幸せそうな顔して笑うお姉ちゃんを
心から祝福できない自分がすごく嫌だった。


あれはどうゆう感情だったのかな。
いま考えても分からないけど、、
置いて行かれた気がして寂しかっただけ?
それとも、、 なんだったんだろなあ。

もしやり直しが利くなら心から祝福してあげたい。
自分の事のように、、喜びたい。
だって、
好きな人とずっと一緒にいられる事は
すごく、、 幸せな事だから。

あの時の私はまだそれを知らなかったの。
ごめんね お姉ちゃん、、


なんだかんだ仕事に行っては
アパートでひとり ご飯を食べて、が当たり前になって
それが余計と寂しく感じる季節が来てた。

トレンチコートをクローゼットにしまって、
お姉ちゃんからもらった
ベージュのウールコートを手前に出した。





オーナー)
お、お帰り。
外は寒い?

寒ーいっ、ただいま。
あったかいの飲みたい。

オーナー)
あったかいのねえ、、
ワインは苦手だろ?

ホットワインはもっと嫌い。

オーナー)
あ、ウユは好きか?

ウユ?好きでも嫌いでも、、

オーナー)
シナモンは?

シナモンは好き!
シナモンロールなんて出してくれるの?

オーナー)
ばか、そんなのあるわけねえだろ?

ざんねーん、、

オーナー)
ちょっと痩せたな?
食ってんのか?ちゃんと、

オーナー知ってる?
ひとりで食べるご飯ってさ、

オーナー)
俺はひとりでも美味しく食べれるぞ?

私は繊細なの!

オーナー)
繊細、、ねえ、、 へえ?

もぅ、むかつく、

オーナー)
がははっ、そんなカッカするな。
美容に良くないぞ?

またそんな、、
あいつみたいな事言って、

オーナー)
そうか?

そうよ、ふたりして、、






ギイィ、、


オーナー)
お! お疲れ。

お疲れ様、寒いね。

お疲れ。

オーナー)
ほら、できたぞ。

あ、いいにおーい、、

なに、その飲み物、、

オーナー)
ホットラムカウ ってんだよ。

へぇ、、牛ね、猿じゃなく牛、

うるっさいわよ、

牛が、、ウユを、へえ?

、、いつかバチが当たるわよ。

、、怖いユル。





私がこんなことを言ったのがまずかったのか、
その週末、
あの人は傷だらけでお店のドアを開けた。

流石のオーナーも
夜間診療で診てもらえって言うくらいに
酷かった。
頭から流れた血が ワイシャツの襟に滲んで、
あの人は大丈夫だよって笑ってたけど、
なんであの時あんな事言っちゃったんだろって
すごく思った。



オーナー)
こんなとこ来てないで
病院行けよ、、

こんなとこ、って自分の店なのに、
頭は血が出るんだ、大丈夫。

行って来なよ、、

ユルも、
ほんと大丈夫なんだって。

行こ?
何もなかったらそれでいいじゃん、

オーナー)
、、、

ジンライム頂戴?

オーナー)
お前に出せる酒はないよ。

はぁ? なんで、

オーナー)
ごめんユル、
こいつ連れて病院行ってくれる?

うん、わかった。
ほら行くわよ!

え、ちょっと、

オーナー)
今度奢るから、悪い。

ううん、大丈夫だよ 気にしないで。

オーナー)
ありがとな、

おい、ちょ、、

オーナー)
そんな頭から血出した客がいると
俺がやったと思われるだろ?
行ってこい。

わ、わかったよ、

ほら行くよ?






表通りに出て 病院まで、、
15分位の距離を歩いた。

肩を並べて。

何話したかなんてあんまり覚えてない。
だって
ふたりで話をするのはすごく久しぶりだったから。



あの人と外を歩いたのはあれが二回目。
不謹慎だけど私はどきどきして、、 すごく上がってた。

あの人はぶつぶつ 文句言いながらも
ちゃんと夜間診療にかかって、、
待ってる間 あったかいココアを買ってくれた。


甘くて、あったかくて、、
オーナーのところで飲んだお酒より
美味しくて、、
悪かったなって謝るあの人が可愛くて、、



じわじわ、
喉を通ったココアから
身体中があったかくなってく感じがして


ほんとに好きになっちゃったんだなあ、って思った。

















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