いつも笑顔の一哉くんが、こんなに真剣な表情をしたところは、今までに見たことがない。
──カチャ、ガタン。
玄関の方で、物音がした。
第三者の登場に、ホッとしたのも束の間。
隠れる暇もなく、足音はリビングへ。
気まずい私とは反対に、一哉くんは冷静に修二くんに話しかける。
修二くんに、グイッと強く手を引かれ、駆け足気味についていく。
連れていかれたのは、二階にある一室。
クローゼットから出して、渡されたのは、パーカーと細身のパンツ。
彼氏が出来て、初めて彼の部屋におじゃまをするシチュエーション。
さらには、彼の服に袖を透す。
以前夢見ていたよりも、ずっとドキドキする。
……違った意味で。
服を受け取ったまま、動こうとしない私を見て、察したのか、修二くんは部屋の扉を開けた。
パタンと静かに閉まる扉を見て、後悔する。
待たせたくないから、制服を脱いで、急いで服を着替える。
パーカーの肩がずり落ちて、袖にすっぽりと手が隠れる。
パンツも長すぎるから、歩きやすいように裾を折り込む。
扉を開けると、修二くんが壁に背を預けて、腕を組んで待っていた。
*
階段を降りて、リビングにいる一哉くんに顔を出す。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!