第14話

名木沢くんのお家に行きます
7,130
2022/05/21 04:00
傘は一哉くんが持ってくれて、ふたり並んで道を歩く。
お互いに濡れないように、肩を寄せあって、距離がすごく近い。
私の隣にいる顔を、時折ときおり見上げる。
(なまえ)
あなた
(本当に、似てる)
(なまえ)
あなた
(背の高さも、ほとんど同じ)
(なまえ)
あなた
(顔は……、髪の毛の分け目が違うくらいなのかな)
(なまえ)
あなた
(でも、今ならはっきりとふたりの違いが分かる)
(なまえ)
あなた
(今、告白をしようとしたら、絶対に間違えない)
(なまえ)
あなた
(間違わず、……あれ?)
ピタリと思考を止める。
(なまえ)
あなた
(告白って、……どっちに?)
名木沢 一哉
名木沢 一哉
どうかした?
(なまえ)
あなた
……ううん、何も
名木沢 一哉
名木沢 一哉
そう? さっきから、なんか難しそうな顔してるから
(なまえ)
あなた
見られてた? 恥ずかしいな
名木沢 一哉
名木沢 一哉
あはは
名木沢 一哉
名木沢 一哉
こんな近くにいるんだから、見るなって方が無理だよ
名木沢 一哉
名木沢 一哉
だから、あなたの名字さんも、俺のこといっぱい見ていいからね
(なまえ)
あなた
え? あはは、ありがとう
沈黙にならないように、気をつかってくれているのか、一哉くんはずっと話しかけてくれる。
今までにないくらいの近い距離に、どうしようか戸惑っていたけど、
今ではもう、昼休みに一緒にいる時と同じ空気。
(なまえ)
あなた
(一哉くんとは、一緒にいるとすごく落ち着くな……)
名木沢 一哉
名木沢 一哉
そういえば、あなたの名字さんちって、どの辺?
(なまえ)
あなた
あ、うちはね、これから……1、2……、あ、3個目の信号かな。そのすぐのところなの
名木沢 一哉
名木沢 一哉
じゃあ、うちの方が学校に近いんだ
(なまえ)
あなた
……え?
(なまえ)
あなた
一哉くんたちの家の方が、近いの?
名木沢 一哉
名木沢 一哉
そうだよ。うちは、次の信号の手前だから
名木沢 一哉
名木沢 一哉
あれ? 知らない? 修二と毎日一緒に帰ってるんだよね?
(なまえ)
あなた
うん……
(なまえ)
あなた
(だって修二くんは、いつもうちまで送ってくれる)
(なまえ)
あなた
(初めて一緒に帰った日にも、自分の方が遠い家だからって言って……)
(なまえ)
あなた
(え? それなら、修二くんはいつも……)
──バシャッ!
名木沢 一哉
名木沢 一哉
うわ!?
(なまえ)
あなた
ひゃあ!!
思考が、強制的に終了する。
一瞬、何が起こったか分からなかった。
気づいた時には、一哉くんとふたりで、全身ずぶ濡れになっていた。
名木沢 一哉
名木沢 一哉
うわー、あの車ー……
一哉くんが、うらめしそうに走り去る車をにらむ。
私たちは、すれ違いざまに車に思いっきり水をかけられたらしい。
ハンカチを出し、一哉くんに渡す。
(なまえ)
あなた
大丈夫? 意味ないかもしれないけど、これ使って
名木沢 一哉
名木沢 一哉
俺は大丈夫。あなたの名字さん、女の子なんだから、自分で使って
(なまえ)
あなた
渡したハンカチで、一哉くんは私の顔を、ポンポンと軽く叩くように拭く。
名木沢 一哉
名木沢 一哉
これで帰るの、大変でしょ
名木沢 一哉
名木沢 一哉
うちの方が近いから、服乾かしていきなよ
(なまえ)
あなた
そ、そんな、大丈夫だよ!
(なまえ)
あなた
そこまで遠くないし
名木沢 一哉
名木沢 一哉
雨も強くなってきたし、遠慮しないで
(なまえ)
あなた
遠慮っていうか……
(なまえ)
あなた
は……っくしゅん!
名木沢 一哉
名木沢 一哉
ほら、こんな状態で、女の子をひとり帰せないよ。風邪引くって
(なまえ)
あなた
えっ、えっ、あの
押し切られるように、私は一哉くんに連れられて、名木沢家に行くことになってしまった。

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