休み時間の終わりギリギリに教室に戻ると、待っていてくれたのか、
聡美ちゃんが焦りながら注意をしてくれた。
自分の席に着き、机の上に授業の準備をする。
ふと一哉くんの席を見てみると、パチッと目が合って、すぐに目を伏せた。
授業が始まって、先生の声を聞き流しながら、自分の世界に入り込む。
怪我のせいで、人よりも入学が遅くなって、すでに友達のグループは出来上がっていて。
ひとりぼっちにも慣れて、諦めかけた頃、助けてくれたのが一哉くんだった。
また、一哉くんの姿を盗み見る。
私の方が、彼よりも後ろの席にいるから、授業中である今は、目が合うことがない。
*
放課後になって、帰り支度をする。
つい、いつもの癖で待ってしまったけど、もう修二くんは迎えにこないことに気づいて、
黙って席を立った。
うつむきながら、廊下を歩く。
そのせいで、自分の歩く先を見ていなかった。
ドンッと誰かにぶつかって、顔を打った。
顔も見ずに、頭を下げる。
声を聞いて、ますます顔を上げられなくなる。
顔は見れない。
だけど、きっと修二くんは今、ホッとしたように、滅多に見せない笑顔を浮かべている。
昼休みの、一哉くんの言葉を思い出す。
『修二は、興味がないと、愛想笑いすらしない』
やっと顔を上げて、修二くんの視線の先を追いかけると、そこには一哉くんがいた。
去っていく修二くんの後ろ姿を見送って、逆に、一哉くんはこちらに近づいてくる。
昼休みのこともあって、一哉くんの顔も上手く見られない。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。