第21話

名木沢くんと観覧車
5,493
2022/07/09 04:00
日も落ちてきて、園内にいた人たちも、少しずつ少なくなってきた。
名木沢 修二
名木沢 修二
……
(なまえ)
あなた
……
(なまえ)
あなた
(体がだるい……)
体が熱いのに、悪寒がする。
修二くんは、あまり喋らなくなってきた。
(なまえ)
あなた
(私もあまり元気がないから、ちょうどいいかも)
ずっと気のせいかもしれないと思っていたけど、この体調不良には心当たりがある。
(なまえ)
あなた
(絶対、おとといの雨だ)
同じような状況でいた一哉くんが、昨日休んだことを考えれば、私が風邪を引くのも当たり前。
(なまえ)
あなた
(だから、昨日から顔が赤かったし、クラクラするのも寝不足のせいじゃなかったんだ)
(なまえ)
あなた
(自分の体調も分からないとか、にぶすぎる……)
名木沢 修二
名木沢 修二
疲れた?
名木沢 修二
名木沢 修二
……帰るか
(なまえ)
あなた
あっ……
自分の体調を考えれば、その提案は受け入れた方がいい。
(なまえ)
あなた
(でも……)
(なまえ)
あなた
(今、修二くんと離れちゃダメな気がする)
辺りを見回し、目に飛び込んだのは、遊園地を象徴する大車輪。
(なまえ)
あなた
最後に、観覧車に乗らない?
名木沢 修二
名木沢 修二
……いいけど
薄暗くなってきたこともあって、観覧車からの景色に、キラキラのネオンが見える。
(なまえ)
あなた
綺麗……
名木沢 修二
名木沢 修二
うん
私たちは、隣同士に座っている。
ずっと立って、歩いてばかりいたから、座るだけでもホッとする。
(なまえ)
あなた
修二くん、一哉くんの具合って、どう?
(なまえ)
あなた
(早めに着替えを借りた私ですら、風邪を引いたくらいなんだから、一哉くんなんてもっとひどいんじゃないかな)
名木沢 修二
名木沢 修二
一哉のこと、気になる?
(なまえ)
あなた
気になるっていうか……、心配だから
名木沢 修二
名木沢 修二
本当は、一哉のことが好きだからじゃなくて?
(なまえ)
あなた
何言ってるの……?
名木沢 修二
名木沢 修二
昨日、話してただろ
心当たりがあるのは、昨日の昼休みの、聡美ちゃんとの会話。
名木沢 修二
名木沢 修二
わざと聞くつもりじゃなかった。通りがかったら、俺たちの話をしてるのが、聞こえてきて
名木沢 修二
名木沢 修二
立ち聞きみたいになって、ごめん
(なまえ)
あなた
(聞かれてたなんて)
(なまえ)
あなた
(それなら、最後に私が否定しなかったことも……?)
(なまえ)
あなた
……
名木沢 修二
名木沢 修二
言っただろ。俺に告ってくる子は、本当は一哉が好きで、間違えるだけだって
名木沢 修二
名木沢 修二
あなたの下の名前も、そうだっただけなんだよな
(なまえ)
あなた
そんな! ……っこと
(なまえ)
あなた
(そんなことないって、言えない)
私は本当に、修二くんを一哉くんと間違えた。
名木沢 修二
名木沢 修二
何も言えない?
(なまえ)
あなた
……
ズルい私は、うつむいて口を閉ざす。
名木沢 修二
名木沢 修二
……
(なまえ)
あなた
強引に自分の方へ顔を向かせるように、修二くんの手のひらが頬に触れる。
そして、顔が近づいて……
(なまえ)
あなた
っ!!
(なまえ)
あなた
(風邪が……!)
とっさに両手を出して、修二くんを押しのける。
名木沢 修二
名木沢 修二
やっと拒否ったな
(なまえ)
あなた
! あ、あの
名木沢 修二
名木沢 修二
あなたの下の名前に会うまで、優しいほうが兄で、冷たいほうが弟。ずっとそう言われてきた
名木沢 修二
名木沢 修二
だから、あなたの下の名前が俺に優しいって言った時、すごく驚いたんだ
名木沢 修二
名木沢 修二
嬉しかった
(なまえ)
あなた
修二くん……
名木沢 修二
名木沢 修二
あいつと双子だと、好きになる子もいつも同じだった
名木沢 修二
名木沢 修二
だから、一哉もきっと、あなたの下の名前のことが好きだよ。今度こそ、上手くいくから
修二くんは優しく私の頭を撫でて、口元で笑う。
名木沢 修二
名木沢 修二
別れよう
その日は、家に帰ってすぐ、寝込んでしまった。
涙でぐちゃぐちゃになった顔を布団に埋めて、ふと思い出した。
あの遊園地では、観覧車にカップルで乗ると、必ず別れるというジンクスがあったことを。

プリ小説オーディオドラマ