それから数日、全くと言っていいほど関わらなかった私達。部活中も、気まずいままだった。
キャプテンに言われて倉庫に向かったが、入部してからあまり日数が経っていなかったため、ゼッケンがどこにあるのかが分からない。
────うーん....困った.....
いきなり声がしたかと思うと、背中に暖かい温もりを感じた。
───え、
久しぶりに間近で聞くその声に、指先まで緊張が走った。
あれ...? なんでこんな緊張してるの、私....
そのまま後ろから手をまわされ、さらに密着した状態で先輩は上の方にあるカゴに手を伸ばした。
先輩は私にゼッケンを渡すと、すぐに倉庫から出ていった。私はさっきから胸の中に渦巻く不思議な感情に戸惑いながら、受け取ったゼッケンの確認をしていた。
数分で確認を終え、私はそれを手にして倉庫から出た。コートの中ではキャプテンや一ノ瀬先輩達が5vs5の試合を行っていて、その横で太陽達1年生はひたすら往復ダッシュをしていた。
────なんか懐かしい、な...
私の脳裏には、中学の頃の光景がふわりと蘇っていた。
楽しかった日々、辛かった日々。
それらを一瞬にして奪われたあの日。
そして、はじめて、誰かにその事を話した日。
バスケから離れた私を、
引き戻すキッカケになった先輩の言葉。
練習を少し眺めたあと、私はドリンクを作るためにボトルが置いてある所まで歩き出した。
その時の私は、かなりボーッとしていたと思う。
だから、気が付かなかった。
先輩達の声にも、ボールにも。
バシッッッ
何かを叩いたような、大きな音。
目の前には、男らしい大きな手に止められた茶色いボール。
ボールが当たりそうだったのだと気付くのに、時間はかからなかった。
心配そうに下がった眉毛。
少し傾けられた整った顔。
────好き、かも...しんない....
胸の中に渦巻いていた感情が、ほんの少しだけ顔を見せた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!