あなたside
やばい。いや、もうやばいしか出てこない。
語彙力がバカになるほど焦っているという証拠だろう。
センラが………浦島坂田船のみんなの頑張りを部外者の私が壊すのか。
私が…センラと一緒にいたいなんて思っていたから…。
わがままが……ここに来て牙を剥いたのだ。
いや、弱気になるのにはまだ早すぎる。
まだ………守ることは出来るはずだ。
聞かれたらなんて答えるべきか……。
友達…?いや、でも事実ではあるがそんな理由では納得してもらえるはずがない。
役にも立たないような苦しい言い訳しか考えつかない。
そんな中でも時間は刻一刻と過ぎていく。
crewの女の子達はもうこちらへと小走りで来ている。
もう……ダメなのか………。
crewと思われる女の子の一人が思い切ったように私達に話しかける。
もう一人はその子の後ろにこちらの様子をうかがうように隠れている。
センラは、『これは本当にまずい……。』そんな顔を一瞬見せたが、すぐにファンへ向ける下手くそなニコニコ笑顔を貼り付けた。
バレバレなんですが。
私はただただ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。
crewの二人はキャッキャと喜び飛び跳ねている。
私とセンラは気まずそうに顔を見合わせた。
と、センラの口がパクパクと動いた。
速くて読み取れなかったので、首を傾げて『分からない』ということを伝える。
するとセンラは、今度はゆっくりと口を動かした。
ど…………な…………い…………し……………よ……………?
あ、どうしようかってことね。
視線を足元へ移し、瞼をギュッと……深く、固く閉じた。
視界は真っ暗。何も見えない。
とにかく、『あなたは誰?』と聞かれることは間違いないだろう。
問題はどう伝えれば納得してもらえるのかだ。
自分もcrew作戦とかなら私もファンで握手してもらってました…これなら怪しまれない?
ふと、自分でも最低だと思うような感情が湧き上がってきた。
ほんとに………嘘をついてまで誤解を解く必要があるの?
このまま二人で逃げちゃえば…………。
ゆっくりと瞼を持ち上げ、センラを真っ直ぐに見つめた。
センラは…『大丈夫だから。』そう言っているような気がした。
きっと、そう思いたいだけなのかもしれない。
けれど…………もう心は決まった。
私は逃げない─────────
きちんと話そう。わかり合おう。
センラと示し合わせてファンに嘘をつかせるなんて最低な事はさせちゃダメだ。
きっと………君となら大丈夫だ。
─────────
作者の性格の悪さが現れてる気がします。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!