センラside
落ち着かない…。
いや、違うな。落ち着「け」ないというのが正しいかもしれない。
玄関の扉を開けて出てきたあなたはひどく疲れた顔をしていた。
そんなに熱が長引いたのだろうか?
もっと早く来るべきだったかもと後悔した。
リビングへと通され、俺は見覚えのあるソファに腰掛けた。
関心、関心。
なんて呑気なことを考えていた俺は、このあと壮絶な未来が訪れるなんて露知らず。
あなたはお茶の淹れ方も覚えたらしく、とてもいい香りのする紅茶を運んできた。
まぁ、何茶なのかは全く分からないけどな。
口の中に広がるさっぱりとした甘み。
鼻孔もくすぐられ、これは美味しいと頷いた。
あなたを覗き見れば、少し照れたように笑っている。
あなたはためらっているのか、口を閉ざしてしまった。
何度かこのパターンは経験しているため、無言でただひたすらに待つ。
あなたのペースで話してほしいから。
その間にちょこっと紅茶を口に運ぶ。
まるで狙ったかのようなタイミング……。
悪意を持ってやった事ではないと分かっているが、あまりにもベストなタイミングだ。
これを疑わずにはいられないだろう。
いや、違うわ。そんな事を考える余裕はないぞ。
理由なんて言えるかよ。
歌い手で有名になればあなたにも振り向いてもらえるなんて浅はかすぎる考えをしていたからな。
俺の考えとは裏腹に、あなたは離れていった。
やっぱりダメなんかな。
なんだろう。何か引っかかる…というか………何というか…
心の底から『すごい』とか思っていない?
何か、祝福できない理由がある?
なんで…そんな悲しそうなの?
あなたはまたうつむいた。
そんなに言いにくいことなんかな?
頭を殴られたような衝撃が走った。
─────────
ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!