第116話

私達…
157
2021/03/19 21:20










センラside





落ち着かない…。



いや、違うな。落ち着「け」ないというのが正しいかもしれない。



玄関の扉を開けて出てきたあなたはひどく疲れた顔をしていた。


そんなに熱が長引いたのだろうか?


もっと早く来るべきだったかもと後悔した。




リビングへと通され、俺は見覚えのあるソファに腰掛けた。


センラ
センラ
(ちゃんと片付けてあるんやな。)



関心、関心。




なんて呑気なことを考えていた俺は、このあと壮絶な未来が訪れるなんて露知らず。


あなた
あなた
おまたせ…紅茶だよ。


あなたはお茶の淹れ方も覚えたらしく、とてもいい香りのする紅茶を運んできた。


まぁ、何茶なのかは全く分からないけどな。


センラ
センラ
お。ありがとう、いただきます。


口の中に広がるさっぱりとした甘み。


鼻孔もくすぐられ、これは美味しいと頷いた。




あなたを覗き見れば、少し照れたように笑っている。

あなた
あなた
えっと…センラに聞きたいことがあって…
センラ
センラ
ん?なーに?


あなたはためらっているのか、口を閉ざしてしまった。



何度かこのパターンは経験しているため、無言でただひたすらに待つ。


あなたのペースで話してほしいから。



その間にちょこっと紅茶を口に運ぶ。

あなた
あなた
センラって…なんで歌い手になったの…?
センラ
センラ
ゴフッ!!や、ゲホッ!ゲホッ…ゲホッ…
 

まるで狙ったかのようなタイミング……。


悪意を持ってやった事ではないと分かっているが、あまりにもベストなタイミングだ。


これを疑わずにはいられないだろう。




いや、違うわ。そんな事を考える余裕はないぞ。



理由なんて言えるかよ。

センラ
センラ
(あなたが歌い手好きだから…なんて)


歌い手で有名になればあなたにも振り向いてもらえるなんて浅はかすぎる考えをしていたからな。



俺の考えとは裏腹に、あなたは離れていった。



やっぱりダメなんかな。

センラ
センラ
ま、まぁ…何か…やってみたくなったんよ。
メンバーに言ったら賛成してくれたしな…
あなた
あなた
そっか…。結構、人気になってきてるよね。
すごいよね。
センラ
センラ
うん……。



なんだろう。何か引っかかる…というか………何というか…


心の底から『すごい』とか思っていない?  


何か、祝福できない理由がある?



なんで…そんな悲しそうなの?

あなた
あなた
あのさセンラ。
センラ
センラ
なに?


あなたはまたうつむいた。


そんなに言いにくいことなんかな?

あなた
あなた
私達…話さないほうがいいんじゃないかな?




頭を殴られたような衝撃が走った。  











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ごめんなさいっ…ごめんなさいっ…。

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