あなたside
あぁ……もう朝か…。
昨夜は何も食べなかったのになぜか重たく感じる体をゆっくりと起こした。
寝起きなため、まだフラフラとした足取りのまま洗面所へと足を運ぶ。
なんか頭が痛い…。
鏡を見れば、目元もうっすらと赤く腫れている。
薬やその他諸々を詰め込んだ箱があったはずだ。
リビングへと行き、キョロキョロと辺りを見渡した。
目当ての箱はすぐに見つかった。
頭痛薬とデカデカと書かれている小さな箱を取り出した。
裏面を確認すると、1錠でいいみたいだ。
たっぷりの水をコップに注ぎ入れ、薬もろとも飲み込んだ。
簡単な掃除ならば、もうお手の物だ。
センラは13時に来ると連絡をしてきた。
約束の時間まではあと1時間ほど。
今からならば間に合うだろうから早く始めよう。
段々と春へ向けて暖かくなってきている。
お昼どきはポカポカするから眠たくなる。
おかげで手の動きも鈍くなっている。
さっさと終わらせなくては。
自分で自分の頬をペチッと叩き、眠気を飛ばす。
再び開いた瞼が下がらぬ内に手早く掃除をすれば、あっという間に終わった。
掃除に集中していたから忘れていた。
これから私がやるべき事…。
できることならこの気持ちを打ち明けてしまいたかった。
自覚したことで加速していったこの恋。
もうちょっとで告白という所までいったのに…。
君にこれ以上近づくことはできなくなった。
ピンポーン‼
センラだ。きっとそうだ。
小走りでインターホンの前まで向かう。
[話す]というボタンを押して話しかける。
ドキンッ………ドキンッ………
またしてもうるさいくらい鳴っているこの心臓。
玄関までの廊下を歩くスピードよりも速い。
ガチャッ………
少し震えた手で開けた扉はとても重たかった。
目の前に立っているニコニコ笑顔のセンラ。
それに対して私はうまく笑えなくて…。
見慣れているはずのその笑顔も、今はすごく眩しくて…………。
やっぱり、私とは違う世界にいるようで…どこか遠く感じて…………。
本当に……こんな人を諦められるのだろうか……。
センラ………私ね…
センラの事……嫌いだよ。
大っ嫌い。
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この小説もあと少しなので最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!