第21話

35
2018/05/14 14:38
会場に着くと、真ん中の辺りの席を取り、


パンフレットなんかを眺めながら、



ドキドキした気持ちを抑えていた。








いよいよだ。








_____ブー

ブザーと共に、幕が上がった。







指揮者に近い、

客席から見て左側から3番目。





すぐに分かった。






私の会いたかったクラリネット奏者。









奏でる音はまるで私の気持ちを表すかのように、
どんどん曲が変わっていく。





多分、お互いが好きだった。


分かっていながら、好きだと言わなかった。


言ったら壊れてしまう何かに恐れて。


もしあの日、







…卒業するあの日、

大人になっても、クラリネットを続けると言ったあなたの演奏を聞きに行く、

ではなく、

一緒に楽器を続けたいと言ったら…



少しは変わった?





どうだったのだろう…。








でも、何十年ぶりかに、彼を見て思った。





壊れてしまうかもしれない何かなんてなくて、

でも言わなかったのは、


お互いにどこかで、この結末を望んでいて、







この人生が幸せだったという、証明なのかもしれない。










____なんて、思ってしまった、母親の初恋。

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