『はぁ…めんどくせぇな。分かった。分かったよ。聞くだけ聞いてやるから。話せ』
「あのね…?事務所の人と帰ってきた理由はね?飲みすぎちゃって歩けないでしょ?俺が送ってあげるよって言われたの」
「最初は、大丈夫です、帰れますーって言ってたんだけど、いいからいいからって言われて断れなくてっ…グスッ」
「俺にはテオくんしかいないから…グスッ」
『言いたいことはそれだけ?』
『…じんたんって本当に鈍感なんだな。』
『一体どういう神経してんの?』
「…事務所の人だってあの後ホテル行こうとかっ…思ってなかったはずだから…」
『ホテル行こうとか思ってない?そんなことあるかばか。』
『たとえじんたんにはなくてもな、向こうにはあんだよ。』
『こんなに酔って、襲いやすい人を何の下心もなく送る女がいるか?』
「俺にはそんな風に見えないもん…」
『だから、ばかって言ったんだよ。そういう甘い考えが1番やばいんだろ』
『パッと見いい人に見えても、ああいう人ほど頭の中で何考えてるか何思ってるか分からないんだよ』
『てか、まずなんで俺に連絡ひとつもくれないわけ?』
「…もう寝てると思ったから…です」
『寝てると思った?彼女が帰って来てねぇのに寝れるか。ばか。』
「あと」
『あとなに?』
「お酒飲んでると思ったし…」
『あぁ、いつもは飲んでるよ。この時間。でも今日は飲まなかったんだよ。なんでだと思う?』
『じんたんを迎えに行くため。お酒飲んだら、車運転出来ないでしょ?だからだよ。』
『なのに、何の連絡もないし。前みたいになんかあったんじゃないかって不安になってきて。』
「心配…してくれてたの?」
『当たり前だろ…』
『んで?駅まで行ってみたら、女と2人きりで。しかもホテル街向かってて。』
『じんたんさぁ。今日俺が迎えに行かなかったらどうなってたと思う?』
「別に何もなってないとおもう…」
『はぁ?何もなってないわけあるかよ…。ほんっとにばかだな。あぁもう。なんも話したくないわ。あっち行ってて。』
「ねぇ…ごめん…ごめんね…」
『ったく、なんで泣くんだよ。泣きたいのはこっちなんだよ…』
『泣けば許されると思ってんの?』
「…グスッ。ごめんね…ておくん…俺を見捨てないで…」
『…って、あぁもうしょうがねぇな。…もう二度とすんなよ?』
「うん…絶対しないからっ…グスッ」
『わかった。分かったから。もう泣くなよ』
「…」
『…じんたん。いつまで背中にしがみついてんの?前おいで。』
「…え?いいの…?」
『いいのって…いいに決まってるだろ笑 彼女なんだから。あと、前来てくれないと…』
「…?」
『抱きしめらんないでしょ…』
『ほら。もういいから。早くおいで。』
ギューッ
『ねぇ、さっき怖かった?』
「うん。ものすごく。捨てられるかと思った…」
『笑笑 捨てるわけないでしょ。こんなに可愛い彼女のこと。愛してるよ。じんたん。』
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!