オレな、しげと会えて本当に良かった。
帰る方向は全く逆。
しげの家の方へ行こうと思えば、電車を乗り換えて1時間はかかる。
性格だって似てないし、好きな食べ物も違う。
しげは僕より先輩やし、僕はしげより後輩。
でも、初めてやったんや。
自分の病気のことを他人に自分から話そうと思えたこと。
なんでか、しげになら話せるって思った。
僕の病気のことを知った人はみんな、僕を同情の目で見た。
かわいそうって。
でも、そう言われるたび、ああ、僕ってかわいそうな人間なんやって思って。
いつしかできることじゃなく、出来ないことの方が目に付くようになった。
ジュニアになってからも、僕が遅れを取っていることを不思議に思って、心にもない言葉をかけられることもあった。
きっと、分からへん人には、一生わからへんねやと思う。
病気であることで感じる、自分でも分からない感情の数々。
でも、しげは違ってた。
「小瀧、頑張ってるんやな」
そう言って、笑ってくれた。
「小瀧にできることはたくさんあるんとちゃう?ここにおる誰にもできひんけど、小瀧にしかできひん事もあると思う」
そう言われた時、狭くなってた視界を広げられた気がした。
「小瀧は甘え上手やな!ここにいる誰よりも!オレが保証する!」
それって自慢できることなん?って首を傾げたけど、
「もっと自信もて!」
そう言って背中を押されたこと、
きっと僕は一生忘れない。
だって、
初めてその時僕は、
自分が病気だってことを忘れられたから。
思えば、濱ちゃんや神ちゃんと仲良くなれたんも、しげが声をかけてくれたおかげやったな。
きっと、オレ、一生しげには勝たれへんねやろうな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!