晩ごはんの後、食器洗いをするおかんの横で、食器をふく。
病院から帰ってから、おかんはずっと泣いてて、でもレッスンから帰ったらいつもみたいに笑顔で「おかえり」って言ってくれて。
でも、なんかきまずい。
そんな思いをきっとおかんも抱えながら、ただ、食器を洗う音だけが響く。
ふと響いた声に、え?と手が止まった。
そう言いながら、困ったように笑う。
そういうのが精一杯だった。
本当は、もっと言いたいことがある。
食器洗いを続けるおかんの背中に伸びた手も、照れくさくて引っ込んでしまって。
せめてそう言うと、そんな僕を見ておかんは優しく笑った。
突然言われて「へ?」と声を出す。
そう言うおかんに、「それかなり前や」と笑う。
その日の夜は、3人並んで寝た。
おとんと、おかんと、その真ん中に僕。
おとんもおかんも、僕が寝るまで頭を撫でたり、腕をさすってくれたり。
照れくさかったけどすごく嬉しくて、
子供に戻ったみたいな気分で、
多分、おとんやっておかんやって、まだ気持ちの整理なんてついてないやろうし、
僕やって、よく分からない。
でも、きっと今、
僕も、
おとんも、おかんも、
幸せや。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。