第2話

アオいハルの恋心
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2020/03/18 02:11
4月8日。水曜日。始業式の日。

私は中学2年生になった。

学年が変わって、クラス代えはあったけど、
私自身はそんなに変わらないまま、1つ歳をとる。


日坂 心
にしても、
またひかりと同じクラスで良かった〜!!
幼なじみのこころが、生徒玄関でクラスを確認して
スリッパを履きながら笑顔で言う。
天月 光
小学校から同じだったから
なんか心の顔あると安心するなぁ
日坂 心
え、何そのめっちゃ嬉しい台詞!!
やっぱあんた可愛いわぁ
さっすがフルート奏者!!
天月 光
たぶんやけどフルートは関係ないかな
トン、トン、トン。

そんな無駄話をするのはいつものこと。
いつもと違うのは階段を登りながらってこと。
日坂 心
にしても、
今まで1階の住人やったんが
2階の住人になるっち考えると
あたしも歳とったなっち思うわぁ……
天月 光
何言っちょんの心!
まだまだ若いよ私たち!!
これからだよアオハルは!!
教室の前で、笑い合う。

そのまま新しい教室の新しい席に座る。


こんな平和な、でもトキメキも何も無い日常で、
アオハルってやつを浪費してくんだと思ってた。
















チャイムが鳴る。

でもこれは、朝学習の始まりのチャイム。
今日は朝学習の課題が無いから、
皆思い思いにお喋りしてる。


春休み中に遊園地に行ったとか
水族館に行ったとか
ネットで恋人が出来たけど2時間で別れたとか。

中学生の日常は
大きな事件のない割になにげ忙しい。



私も特に事件無かったなぁ……

──あの人に出会ったこと以外は。





桜色の中に佇んだ彼の姿を思い出す。




でもまぁ、もう会うことも無いんやろうな。










そんなことをつらつらと考えてると、
またチャイムが鳴った。



2分遅れて、足音が聞こえてくる。

学校の先生って人種は、
生徒が時間に遅れることにはうるさい癖に
自分自身の時間にはルーズや。

まぁ今更何も思わんけど。



その足音で皆が静かになるんも、いつも通り。

先生
はーい朝学活始めっぞー
クラスメイト
えー!? 今年ん担任 智徳とものり先生なんー!?
先生
いや担任は始業式で発表されるけどな
クラスメイト
いややー!! 
イケメンやないとやる気出らんー!!
先生
何やその言い方は!!
べつに先生が担任でもいいやろ!?
その言い草に教室がどっと湧く。

智徳先生はまだ若いけん、生徒たちに懐かれてた。

やけんこの軽口のやり取りもいつも通りで、
やっぱり ぬるっと新学期が始まるんだ。

皆思ってた。
クラスメイト
え、なぁ待って先生!
ドアの外誰かおるやん!! 転校生!?
その声に皆がザワつく。

んな ベタな少女漫画かよ。
先生
そうそう、皆ふざけるけん
紹介できんかったやん!
ほら、紀友きのとも、入っといで!!
そう言われて入って来たんは、





…………ん?
???
失礼します
え、嘘やろ、あの桜の……!!
紀友 桜人
はじめまして、紀友きのとも 桜人さくとです
まーじで少女漫画やん……

ていうか名前まで桜やん……








教室をぐるっと見回した彼と、
ふっと目が合った。

向こうも驚いたような顔をして、
そしてまたあの日のように笑った。

私もぎこちなく笑い返す。




席は私の斜め前。
先生
ちゅーわけで、仲良くしちゃれよ〜
クラスメイト
やっぱ先生適当やわ……
先生
しゃーしいわ!!
じゃあこれで朝学活終わるから、
5分後くらいには始業式んために
廊下並んどけよー
クラスメイト
はーい
そう言って先生が去る。


と同時に彼がくるりとこちらを向いた。
紀友 桜人
びっくりした、また会うなんて
天月 光
ね、私もびっくりした
あの時はホントありがとう
紀友 桜人
全然
ねぇ、名前聞くの忘れてた
なんて言うの?
天月 光
天月あまつき ひかり
紀友 桜人
綺麗な名前だね
なんなんこの人!!
こんなこと さらって言うなんて……
言葉遣いとか、言い回しとか、
何か大人っぽくてキザにも聞こえて、
こっちが赤くなってしまう。
天月 光
桜人くんって名前なんだね
なんかめっちゃイメージにぴったりや
紀友 桜人
桜人、でいいよ
最初に会ったのが桜道だったから
余計にそう感じるのかもね
天月 光
桜人、ね、わかった。
じゃあ私も 光、でいいよ
紀友 桜人
わかった
クラスメイト
なぁなぁ紀友くんはじめまして!
俺 松本っていうんやけど!
これからよろしくなぁ!
クラスメイト
ねぇ紀友くんはどっから来たん?
全然訛っとらんし市外とか?
転校生の桜人は、皆に囲まれる。
紀友 桜人
また後で
そう小声で言って皆の方に身体を向ける。


私も、席を立って心の近くへ歩く。
日坂 心
え、なぁ光
転校生くんと知り合いなん?
天月 光
うん、知り合いっちゅーか
前ちょっと会ったことがあるって
だけなんやけど……
天月 光
この間散歩した時にぃな
風が強くって
帽子とばされちゃったんやけど、
天月 光
そん時に桜人が拾ってくれて……
日坂 心
え、何それかっこよ
つか出逢い方良すぎ
かぁー、少女漫画かよアオハルかよ!!
天月 光
そんなんやないよ〜
天月 光
……たぶん
志津 春日
何なに何の話しとるん?
光 なんか顔赤いよ!!
そんな調子で会話に入ってきたんは、
幼なじみの 春日はるひ

お調子者な彼がふざけた感じで
私らの会話に入ってくるんも、いつものこと。

そして……
日坂 心
あんたはいッつも関係ないんに
会話に入ってくんなッ!!
心に膝でお腹を蹴りあげられるんも
またいつものこと。

小学生の頃から変わらない風景。
志津 春日
ちょ、おま、よくも……ッ!
そんなんやからモテねぇんだよ!!
お腹を苦しげに押さえながら、
春日が去っていく。
志津 春日
なぁ紀友くん 桜人くん!!
お友達なろうや!!
紀友 桜人
もちろん。名前聞いてもいい?
志津 春日
志津しづ 春日はるひ! よろしくな!!
数秒後には立ち直ってるけど。
日坂 心
……なんなんあいつ 余計なお世話やわ
見ると、心の頬が少し赤い。
天月 光
えぇ…… 
心そんな赤くなるほど怒らんでも……
日坂 心
……あー、いや、そうやないんよ……
活発でハキハキと話す心が、珍しく歯切れが悪い。

片手で目の辺りを覆って話す。
日坂 心
あんな……、最近気づいたんやけど、
あたし、春日んことが好きかも……
天月 光
えぇーー!!?
日坂 心
光 声大きいっちゃ!
天月 光
あ、ごめん
え、マジかぁ……
アオハルはそっちやん
恋……

恋なぁ……
日坂 心
そういう光も、
桜人くん?のこと絶対好きやろ!
あんた気づいとらんかもやけど、
さっきからちらちら見よんよ!!
天月 光
え、えぇ!?
両手で頬を覆う。熱い。
天月 光
いや、でもまさか……
日坂 心
いーやわかる。
あたしが光んこと
何年見てきたっち思うん!!
天月 光
35億年?
日坂 心
そんな生きとらんし
そんな見とったらストーカーやし
いい加減古いわそれ……
心が少しげっそりとした顔をする。


そんな心を横目に、
ふっ と、桜人に目をやる。


遠くでクラスメイトに囲まれ、
とくに春日と仲良さげに話してるけど、
視線に気づいて彼が顔を上げる。


あの日の無邪気な笑顔で手を振ってくる。

私も振り返す。









……あ、わかった気がする。 心の言うこと。
天月 光
なぁ心、私、桜人のこと好きかも
先生
おーら並べー
始業式だぞー、気ぃ引き締めてこー
アオい恋心を自覚した脳に、
やる気の無い先生の声が響いた。

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