4月8日。水曜日。始業式の日。
私は中学2年生になった。
学年が変わって、クラス代えはあったけど、
私自身はそんなに変わらないまま、1つ歳をとる。
幼なじみの心が、生徒玄関でクラスを確認して
スリッパを履きながら笑顔で言う。
トン、トン、トン。
そんな無駄話をするのはいつものこと。
いつもと違うのは階段を登りながらってこと。
教室の前で、笑い合う。
そのまま新しい教室の新しい席に座る。
こんな平和な、でもトキメキも何も無い日常で、
アオハルってやつを浪費してくんだと思ってた。
チャイムが鳴る。
でもこれは、朝学習の始まりのチャイム。
今日は朝学習の課題が無いから、
皆思い思いにお喋りしてる。
春休み中に遊園地に行ったとか
水族館に行ったとか
ネットで恋人が出来たけど2時間で別れたとか。
中学生の日常は
大きな事件のない割になにげ忙しい。
私も特に事件無かったなぁ……
──あの人に出会ったこと以外は。
桜色の中に佇んだ彼の姿を思い出す。
でもまぁ、もう会うことも無いんやろうな。
そんなことをつらつらと考えてると、
またチャイムが鳴った。
2分遅れて、足音が聞こえてくる。
学校の先生って人種は、
生徒が時間に遅れることにはうるさい癖に
自分自身の時間にはルーズや。
まぁ今更何も思わんけど。
その足音で皆が静かになるんも、いつも通り。
その言い草に教室がどっと湧く。
智徳先生はまだ若いけん、生徒たちに懐かれてた。
やけんこの軽口のやり取りもいつも通りで、
やっぱり ぬるっと新学期が始まるんだ。
皆思ってた。
その声に皆がザワつく。
んな ベタな少女漫画かよ。
そう言われて入って来たんは、
…………ん?
え、嘘やろ、あの桜の……!!
まーじで少女漫画やん……
ていうか名前まで桜やん……
教室をぐるっと見回した彼と、
ふっと目が合った。
向こうも驚いたような顔をして、
そしてまたあの日のように笑った。
私もぎこちなく笑い返す。
席は私の斜め前。
そう言って先生が去る。
と同時に彼がくるりとこちらを向いた。
なんなんこの人!!
こんなこと さらって言うなんて……
言葉遣いとか、言い回しとか、
何か大人っぽくてキザにも聞こえて、
こっちが赤くなってしまう。
転校生の桜人は、皆に囲まれる。
そう小声で言って皆の方に身体を向ける。
私も、席を立って心の近くへ歩く。
そんな調子で会話に入ってきたんは、
幼なじみの 春日。
お調子者な彼がふざけた感じで
私らの会話に入ってくるんも、いつものこと。
そして……
心に膝でお腹を蹴りあげられるんも
またいつものこと。
小学生の頃から変わらない風景。
お腹を苦しげに押さえながら、
春日が去っていく。
数秒後には立ち直ってるけど。
見ると、心の頬が少し赤い。
活発でハキハキと話す心が、珍しく歯切れが悪い。
片手で目の辺りを覆って話す。
恋……
恋なぁ……
両手で頬を覆う。熱い。
心が少しげっそりとした顔をする。
そんな心を横目に、
ふっ と、桜人に目をやる。
遠くでクラスメイトに囲まれ、
とくに春日と仲良さげに話してるけど、
視線に気づいて彼が顔を上げる。
あの日の無邪気な笑顔で手を振ってくる。
私も振り返す。
……あ、わかった気がする。 心の言うこと。
アオい恋心を自覚した脳に、
やる気の無い先生の声が響いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。