第12話

茜色の憂鬱
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2020/04/03 13:30
A.M. 7:45。

地元の駅前。




ほんとは集合は8時やったんやけど、
ちょっと早すぎたかなぁと思いながら
自転車を停める。







紀友 桜人
…………あ、光
天月 光
桜人っ?


駆け寄る。



天月 光
桜人早くない?
ごめんな、待たせた?
紀友 桜人
ううん、全然大丈夫



な、なんか会話がありがちなカップルみたいやぁ……




紀友 桜人
なんか、
いつも制服でスカート見慣れてるから
ズボンって新鮮だね




笑って言う桜人に鼓動が速くなる。


いけんわ改めて私服で会うとなんか照れるわ……




天月 光
や、やっぱ動きやすい方が
いいかなぁって……



デートとか初めてやけん、
どんなん着ていけばいいんか全然わからんで
箪笥の前で 服 全部広げて
昨日の夜ずっとうんうん唸ってた。




天月 光
へ、変やないかなぁ……
紀友 桜人
変じゃない。 可愛い。


そう断言されて固まる。



天月 光
なんか、ほんと、さぁ……
桜人には敵わん気ぃする……
紀友 桜人
え?何で?




電車が滑り込んでくる。



















天月 光
……遊園地ってさ、
もっと別世界感あるかなって
思ってたけどそうでもないね




ゲートの前に立ち、呟く。





紀友 桜人
しょうがないよ 地方のは



桜人が笑う。



なんだか彼は、いつも笑ってる。




天月 光
お金無いもんね
紀友 桜人
それはたぶん言っちゃ駄目なやつ
紀友 桜人
光、絶叫系行ける人?
天月 光
何でお金払ってまで
怖い思いせんといけんのかわからん。
紀友 桜人
駄目なんだね 笑
丁度良かった、僕も苦手だから
紀友 桜人
好きだったら
どうしよっかなって 笑
天月 光
なら良かった 笑



桜人が先に立って歩き始める。





隣に立っていいのか
ちょっと遅れてついて行くべきなのか
駆けて行って手を繋ごうというべきか
わからない。



そのわからなさは、
彼の病気にどこまで踏み込んでいいのか
わからないのに似ている。



















紀友 桜人
あ、光、あれとかどう?



彼がちょっと笑いながら指し示したのは
ファンシーなメリーゴーランド。




天月 光
…………! 乗りたい!


白状します。

可愛いもの大好きです。








止まったメリーゴーランドの柵の中に入る。




紀友 桜人
これにしよう、2人乗りだし



2人乗りの白馬。



言うが早いか、桜人がするすると登る。




テンション上がっとるみたい。


その様子が可愛くて、笑う私ん前に、
桜人が手を差し出した。






紀友 桜人
…………お手をどうぞ、姫?



固まる。





天月 光
……ふふっ
紀友 桜人
え、ちょ、そこはのってよ
ちょっと恥ずかしいじゃん!



桜色に染まる頬が愛おしい。




別に1人でも乗れるけど、手をとる。






手の先は、冷たい。









そのまま引き上げられて、桜人の前に乗る。



背中に他人ひとの体温を感じる。









音楽が流れ出す。


ゆっくりと動き出す。








天月 光
………… そう言えば、
メリーゴーランド乗るの初めてかも
紀友 桜人
うん、僕も
天月 光
修学旅行とかは大体 皆
ジェットコースターとか
乗りたがるけんさ
紀友 桜人
だいたい下で待って見上げてた




背中越しに伝わる声。







やがて、メリーゴーランドが
段々スピードを落とし始める。



白馬が止まり、音楽も止まる。







背中に感じていた体温が離れる。



紀友 桜人
………… はい



冗談ぽく笑って手を差し出す。




天月 光
ありがと



だから私も冗談ぽく応じる。








降りて、


手が離れる。




















そのことに、さっと背筋に悪寒が走った。


離れてく感覚が、怖かった。












パシッ






手を、繋ぎ止める。













彼が驚いた目を向けて、我に返った。




天月 光
っ、ごめん……



手をひく。


俯く。








そんな私の左手を、彼の右手が包んだ。







紀友 桜人
………… 手、繋ごか。
天月 光
……うんっ



どうして、離れてくなんて思ったんだろう。




彼は優しいから、
私を置いていきなんてしないのに。






彼はまだ、生きてるのに。





















……………… 閉館時間が迫ってきた。



紀友 桜人
………… ね、最後。
観覧車乗ろうよ。
天月 光
うん!




もう人もまばらで、待つこと無く乗れた。








ゆっくりと、上がっていく。



会話が無くなる。









日は傾いて、彼の横顔を幻想的な茜色に染める。











それが、あんまり綺麗で。


悲しくなる。














紀友 桜人
………… 光。聞いて。
天月 光
…………うん、何?
紀友 桜人
……今日ね、
外出許可貰っただけなんだ。
天月 光
……え?
紀友 桜人
検査、
…………良くなかった。
紀友 桜人
寿命は変わんなくて。
紀友 桜人
やっぱり僕は
2月かそのくらいまでしか
生きられなくて。
紀友 桜人
…… 快方に向かっているって、
言われたのに、どうして……っ





彼が唇を噛んで俯く。







紀友 桜人
………… 入院だって。
いつまた倒れるかわかんないから
紀友 桜人
いつ容態が悪くなるかわかんないから
紀友 桜人
もうたぶん、
学校に復帰することは、無い。





日が山に隠れようとする。




観覧車はいつの間にか降り始めている。







紀友 桜人
…………っ、
光と、生きていたいのに……っ
紀友 桜人
まだ、生きたいのに……っ
紀友 桜人
やっぱり、
桜の咲く頃に僕はいない。





日は沈んで、陰だらけで、

彼の顔ももう見えない。







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