A.M. 7:45。
地元の駅前。
ほんとは集合は8時やったんやけど、
ちょっと早すぎたかなぁと思いながら
自転車を停める。
駆け寄る。
な、なんか会話がありがちなカップルみたいやぁ……
笑って言う桜人に鼓動が速くなる。
いけんわ改めて私服で会うとなんか照れるわ……
デートとか初めてやけん、
どんなん着ていけばいいんか全然わからんで
箪笥の前で 服 全部広げて
昨日の夜ずっとうんうん唸ってた。
そう断言されて固まる。
電車が滑り込んでくる。
ゲートの前に立ち、呟く。
桜人が笑う。
なんだか彼は、いつも笑ってる。
桜人が先に立って歩き始める。
隣に立っていいのか
ちょっと遅れてついて行くべきなのか
駆けて行って手を繋ごうというべきか
わからない。
そのわからなさは、
彼の病気にどこまで踏み込んでいいのか
わからないのに似ている。
彼がちょっと笑いながら指し示したのは
ファンシーなメリーゴーランド。
白状します。
可愛いもの大好きです。
止まったメリーゴーランドの柵の中に入る。
2人乗りの白馬。
言うが早いか、桜人がするすると登る。
テンション上がっとるみたい。
その様子が可愛くて、笑う私ん前に、
桜人が手を差し出した。
固まる。
桜色に染まる頬が愛おしい。
別に1人でも乗れるけど、手をとる。
手の先は、冷たい。
そのまま引き上げられて、桜人の前に乗る。
背中に他人の体温を感じる。
音楽が流れ出す。
ゆっくりと動き出す。
背中越しに伝わる声。
やがて、メリーゴーランドが
段々スピードを落とし始める。
白馬が止まり、音楽も止まる。
背中に感じていた体温が離れる。
冗談ぽく笑って手を差し出す。
だから私も冗談ぽく応じる。
降りて、
手が離れる。
そのことに、さっと背筋に悪寒が走った。
離れてく感覚が、怖かった。
パシッ
手を、繋ぎ止める。
彼が驚いた目を向けて、我に返った。
手をひく。
俯く。
そんな私の左手を、彼の右手が包んだ。
どうして、離れてくなんて思ったんだろう。
彼は優しいから、
私を置いていきなんてしないのに。
彼はまだ、生きてるのに。
……………… 閉館時間が迫ってきた。
もう人もまばらで、待つこと無く乗れた。
ゆっくりと、上がっていく。
会話が無くなる。
日は傾いて、彼の横顔を幻想的な茜色に染める。
それが、あんまり綺麗で。
悲しくなる。
彼が唇を噛んで俯く。
日が山に隠れようとする。
観覧車はいつの間にか降り始めている。
日は沈んで、陰だらけで、
彼の顔ももう見えない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。