…………神社の階段に腰掛けて、彼の話を聞く。
生まれた時からあまり
身体は丈夫ではなかったこと。
瞼の裏に腫瘍が出来ているらしいけど
詳しいことは親が教えてくれないこと。
県庁のある市の大学病院に通院していること。
最近は少し体調が良くなっていたから
油断していたこと。
………… 余命が1年も無いこと。
信じられん。
ていうか、信じたくない。
目の前にいて、今 息をしている彼が、
数ヶ月後には いないかもしれんって。
桜みたいに、潔く いなくなりたいから。
そう言って笑う。
こんな時すら 笑顔を浮かべる彼。
やめて。胸が痛いよ。
私にも出来ることは、無いの?
気づいたら、言っていた。
彼がキョトンとした顔をする。
小鳥のさえずりが聞こえる。
俯く。
………………?
違う。何か、おかしい。
彼が目を逸らす。
…………そうでな。
自分が特別なんやないかって
一瞬でも思った自分が恥ずかしくて、
卑屈な自分が顔を出す。
目から涙が零れ落ちる。
滲む視界の中、彼が目を見開く。
ついで、悲しげに閉じた。
そんな否定の言葉に、胸がきゅうと鳴く。
俯く。
弾かれるように顔を上げる。
彼の目も、ほんのり赤い。
自嘲するように、彼が笑う。
音が遠い。
彼が顔を覆う。
息を吸う。
ヒュウ と音が鳴った。
彼は俯いてしまった。
…………やがて、顔を上げて。
『君には敵わないな』
と言う風に、笑った。
『縛るのは、嫌だから。』
そんなん無理やと思った。
でも、彼と一緒にいたいから
私は笑ってみせた。
頷く。
彼がそっと私を抱きしめた。
彼の頬にも、私の頬にも、涙が伝っていた。
恋が叶ったのに、何でこんなにも悲しい。
柚葉色の中で、
ずっとこうしていられたらいいのに。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。