第9話

柚葉色の告白
104
2020/03/31 13:21
…………神社の階段に腰掛けて、彼の話を聞く。






生まれた時からあまり
身体は丈夫ではなかったこと。

瞼の裏に腫瘍が出来ているらしいけど
詳しいことは親が教えてくれないこと。

県庁のある市の大学病院に通院していること。

最近は少し体調が良くなっていたから
油断していたこと。

………… 余命が1年も無いこと。







紀友 桜人
たぶん3,4ヶ月くらいだろうって
紀友 桜人
それ以上は、正直わからないって
…………可能性は、低いって
紀友 桜人
中3になれないのは確実だって



信じられん。

ていうか、信じたくない。




目の前にいて、今 息をしている彼が、
数ヶ月後には いないかもしれんって。








紀友 桜人
ま、後悔しないように
楽しく過ごすかな
紀友 桜人
あ、クラスの人達には言わないでね?
変にしんみりしたくないから。


桜みたいに、潔く いなくなりたいから。




そう言って笑う。






こんな時すら 笑顔を浮かべる彼。

やめて。胸が痛いよ。


私にも出来ることは、無いの?











天月 光
私に出来ることは、無いのかな……?


気づいたら、言っていた。


彼がキョトンとした顔をする。


小鳥のさえずりが聞こえる。




紀友 桜人
………… いつも通り、
振舞ってくれること、かな
紀友 桜人
クラスメイトには、
やっぱり知られたくないし。
ギリギリまで隠しときたい。
天月 光
そうだよね……


俯く。



………………?


違う。何か、おかしい。






天月 光
……なら
天月 光
なら、何で私には言ったん?
紀友 桜人
…………え
天月 光
やって、私が聞いても
誤魔化すことやって出来たよな?
天月 光
そっちのが、クラスメイトに
バレる確率は低い訳やし……
紀友 桜人
……… 誰かに、
聞いて貰いたかっただけだよ


彼が目を逸らす。



…………そうでな。


自分が特別なんやないかって
一瞬でも思った自分が恥ずかしくて、
卑屈な自分が顔を出す。





天月 光
………私はしんみりしても
いいって思ったん?
紀友 桜人
……いや、そうじゃなくて……
天月 光
そうじゃなくて、何なん?
それとも、私はそれを聞いて
悲しまんとでも思ったん?
天月 光
クラスメイトに言わんのが
しんみりして欲しくないって理由なら
私に言ったんは
そうならんからって理由になるやろ
紀友 桜人
光……?
天月 光
私は、私は……っ


目から涙が零れ落ちる。

天月 光
桜人がいなくなるんは、
…………っ、 嫌だよ……?
天月 光
私は、たぶん誰よりも、
君にいなくなって欲しくないって
思ってるよ……?
天月 光
私は……っ!
………… 桜人が好きだから……っ!!


滲む視界の中、彼が目を見開く。



ついで、悲しげに閉じた。



紀友 桜人
…………やっぱり君にも、
言わなきゃよかった。





そんな否定の言葉に、胸がきゅうと鳴く。


俯く。













紀友 桜人
だって、そんなこと言われたら、
死ぬのが嫌になるじゃんか。


弾かれるように顔を上げる。


彼の目も、ほんのり赤い。


紀友 桜人
…………誤解させたのは、ごめん。
でも、光に言ったのは……
光に、聞いて欲しかったから。


自嘲するように、彼が笑う。



紀友 桜人
駄目だな、僕は…… 弱い。
紀友 桜人
余命を聞いた時、
真っ先に光の顔が浮かんで、
失敗したって思った。
紀友 桜人
どうせそう長くないのは
わかってたから、
大切な人なんて作らないって
決めてたのに……
紀友 桜人
僕は…………





音が遠い。












紀友 桜人
……どうしようもなく、君が好きだ。













彼が顔を覆う。




紀友 桜人
あー、やっぱり言わなきゃよかった
そしたらまた改めて
自覚することにならなかったのに……
天月 光
…………そんな風に、言わんでよ
天月 光
私は、聞けてよかった
天月 光
だって、これからをもっと
大切に生きれるやん。
天月 光
終わりが無いと
しゃんと生きれんとか、
ほんとは駄目なんわかっとるけど……
紀友 桜人
そうやって、
死んでく人間が
これからを生きる人間を
縛るのが嫌なんだよ
紀友 桜人
そう言ってくれる光だから……
光といたら、生きていたくなるから。
紀友 桜人
叶わないことなのに……っ
天月 光
私は桜人と生きることが
私を縛ってるなんて思わない。
天月 光
むしろこれからの時間、
桜人と一緒に過ごさん方が……
私はきっと後悔する。


息を吸う。

ヒュウ と音が鳴った。







天月 光
君の傍にいさせて。
天月 光
君が好きやから。
君と一緒に生きたい。





彼は俯いてしまった。
















…………やがて、顔を上げて。

『君には敵わないな』

と言う風に、笑った。








紀友 桜人
1つだけ、約束して。
僕が死んだ時に、泣かないで。




『縛るのは、嫌だから。』








そんなん無理やと思った。

でも、彼と一緒にいたいから




天月 光
…………わかった。約束する。


私は笑ってみせた。



紀友 桜人
ありがとう。
紀友 桜人
…………僕の傍に、いてください。




頷く。





彼がそっと私を抱きしめた。




彼の頬にも、私の頬にも、涙が伝っていた。













恋が叶ったのに、何でこんなにも悲しい。













柚葉色の中で、
ずっとこうしていられたらいいのに。






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