JK side
好きだから嬉しかった。
ヒョンと身体を繋げたのも、
腰にあったキスマークも、
好きだから、
ヒョンとしてじゃなく、
恋愛対象として好きだから、
嬉しかった。
泣いてる僕は、いつもより素直になるみたい。
普段なら、
ていうか、一生言うつもりのなかった事を
つい、口走ってしまった。
怒り 悲しみ 不安 喜び
色んな感情が同時に押し寄せて、
脳は混乱したんだと思う。
じゃないとこんな、
僕の一生がかかった大事なこと、言うはずがない。
ぎらりと光る強い瞳が、僕の言葉を聞くと、
動揺したように、キョロキョロと泳いだ。
下を向いてしまったヒョンが、何を思っているのか、
どんな表情なのか分からなくて、
自分の中の不安を断ち切るように、顔を覗き込んだ。
目が合った瞬間、僕は思わず息を呑んだ。
ヒョンの目が、
ため息を吐き出したヒョンの目が、
まるで獲物を狩るみたいな、
そんな強さを、内に宿していたから。
捕えられた僕は、捕食寸前のうさぎみたいに
固まって動けなくなった。
そのまま、
僕を捕えたまま、ヒョンは口を開いた。
スッと僕の頰に、大きな手が添えられる。
そこからはあっという間だった。
いつの間にか、もう片方の手を首に回され、
そのままぐいっと引き寄せられた。
首を押されて、少し上に傾いた僕の顔。
ゆっくりと、ヒョンの綺麗な顔が近づいてくる。
だんだんとぼやけていく視界。
また涙で視界が滲んだのかと思ったけど、
それはあまりの近さに起こった現象だと、
そう気づいた時にはもう遅かった。
ちゅっ
優しく触れた、柔らかい何かが
小さく音を立てて離れていく。
名残惜しそうに伏せた目で、
ヒョンは離れていく僕の唇を、じっと見つめていた。
ヒョンが何か言ったけど、
それに答えるほどの余裕は、僕にはなかった。
は、え、?
何、?
今の?
唇になんか柔らかい何かが、、
ヒョンの顔が近づいて、、
名前を呼ばれても、
その声は、耳から耳へとすり抜けていった。
ようやく状況を飲み込んだにも関わらず、
脳は混乱したままだったから。
頭が回んない。
今、テヒョンイヒョンにキスされ、、
へっ、、?
そう、再度認識した途端、顔にブワッと熱が集まる。
あっつい、、
顔から火が出そうだ。
全身の体温が上がってる。
心臓の音もドクドク鳴り止まない。
ヒョンが僕にキス?
何度頭の中で繰り返しても、
なんでキスされたのか、全くわからなかった。
むしろ僕の脳内をさらに混乱に促した。
そんな僕に構わず、テヒョンイヒョンは言葉を続けた。
ヒョンのその言葉は懇願のように聞こえた。
責めたり、怒ってるわけじゃなく、
お願いって、僕に縋り付いているように見えた。
ヒョンのあまりにも切ない表情を見ると、
ぐるぐるこんがらがっていた頭が、
波が引くようにすっと冴えていった。
僕は、眉にきゅっと皺を寄せたヒョンに、声をかけた。
冴えきった頭で考えた。
さっきからヒョンが僕に聞いてきていたこと。
耳から抜けてっていたその言葉達を、
なんとか思い出して、
パズルのピースをはめるみたいに、
繋ぎ合わせていった。
出来上がったパズルからは、
もやもやとした渦が見えた。
ヒョンはきっと不安なんだ。
僕にどう思われてるのか、知りたいんだ。
それを知りたいのは、
知りたいって強く思ってるのは、
多分、ヒョンも僕のことを、、
ちゅっ
僕達きっと、ずっと前から両思いだったんだ。
自分でこの思いに気づく前からきっと。
さっきの仕返しをするかのように、
ヒョンの頰に両手を添え、そっとキスをした。
触れた唇はあったかかった。
ううん、唇だけじゃない。
触れたその瞬間、心の奥がぽかぽかあったかくなった。
じわじわと、暖かい色が広がっていく。
そんな感覚がして、思わず顔がほころぶ。
ヒョンがポカンとした表情をしていたから、
ちゃんと分かってもらおうと、
嬉しかった訳を説明しようとした。
まだ話している途中にも関わらず、
僕は勢いよく抱きしめられた。
やっと状況を理解したヒョンは、
必死な顔で僕の名前を呼んで、
きつく 強く
溢れる喜びを噛み締めるように、僕を腕の中に納めた。
ヒョンのドクドク、激しく鳴る心臓の音が聞こえる。
僕の心臓もそれに応えるように、大きく鳴る。
ヒョンの熱が今まで触れてきた時より、
大事なもののように感じた。
熱いヒョンの体温が、とても愛おしく感じた。
少し香水の混じった匂い、
すべすべした肌の感覚、
すぐそばで聞こえるヒョンの吐息、
それから、
僕と結ばれたって分かって、激しく波打つ心臓の音
全てが僕を満たした。
あー、幸せだなぁ
体に響く鼓動を、目をつぶって感じていると、
ヒョンの抱きつく手がさらに強くなった。
それと同時に、耳元で囁かれたヒョンの声。
鼓膜に響く、甘ったるいその声に、
思わず鼓動が早くなる。
甘さを含みつつも真剣な声から、
ヒョンの固い決意を感じた。
抱きしめられていた腕が解かれる。
離れていく熱を名残惜しく感じていると、
ヒョンに両手をそっと掴まれた。
驚いて前を向くと、熱意を灯した三白眼と目が合った。
その熱に促され、
ヒョンの瞳を、僕は真正面から受け止めた。
優しい、優しい声色
はっきりと紡がれた言葉は、
この先の未来の約束だった。
僕とテヒョンイヒョンのこれからの約束。
伺うように、だけど曲げる気はないんだろう、
その強い視線に、
僕は溢れ出す思いが止まらなくなった。
泣きながらヒョンに飛びついた。
僕を迎え入れた両腕が、背中に回される。
嬉しくて嬉しくて嬉しくて幸せで涙が零れ落ちた。
こんなに幸せで良いのかなって、
そう思ってしまうほど、幸せだったから。
その後は、ただひたすら2人で泣いた。
お互いの暖かさを感じながら、
喜びを、愛を、分かち合った。
さっきまでは冷たかった、頰を伝う涙は、
なんでだろう
今はすごく温かかった。
抱き合いながら、
ヒョンが、そんな言葉をぽろっとこぼした。
多分僕は、ヒョンが思っている以上に
テヒョンイヒョンが好きだ。
ヒョンは、
冗談で言ったつもりだったのかもしれないけど、
僕はほんとに、ヒョンなしじゃ、
もう生きていけないと思う。
だから、テヒョンイヒョン
少し体を離して、
ヒョンの顔を見上げながら伝えた、僕の思い。
僕ばっかドキドキさせられてるのも悔しくて、
わざと上目遣いで言ってやった。
その瞬間、ヒョンの目が急変した。
愛しむような優しい瞳が、
激しい欲望を含む瞳に変わった。
ガッ
ちゅっ くちゅっ
僕の口に割り込んできたヒョンの舌。
さっき、
人生で初めてのキスをしたばっかりだっていうのに、
急な大人のキスに、僕は頭が爆発しそうだった。
そんな僕に気づいたのか、キスを渋々中断して、
さっきまでの色気のある顔とは裏腹に、
子供のような顔をしたヒョン。
下唇を少し突き出して、
不満そうな顔で僕を見るヒョン。
可愛いんだか、かっこいいんだか、
よく分からないヒョンだ。
いや、もうヒョンじゃない
今日からは僕の恋人。
締め切っていた扉は開かれた。
臆病な僕らは、
開けたらどうなるのか、何があるのか、
悪い未来が訪れるのが怖くて、
その扉に触れないでいた。
運命か、必然か、
僕とヒョンの扉は繋がってた。
どちらかが心を扉を開けば、
もう一方の扉も開いた。
こんなことなら、もっと早く開いとけばよかったな。
心の内を曝け出して、
嘘ひとつない自分の気持ちを、相手にぶつける。
そうすれば、もっと早く
この幸せに出会えていたかもしれない。
ヒョンと恋人になれた幸せを、
噛み締めながらしたキスは、
濃厚で、胸がいっぱいになった。
続きます
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。