俺はずっと思っていた。
いつか好きな人ができて、純粋な恋愛をして、
愛している人と結婚をして、一緒に歳をとる。
そう、小さい頃からずっと。
そんな考えが砕け散るなんて、誰が考えただろう。
それはそれは、急な出来事だった。
ネクタイを締め、スマホを手に持った時のことだ。
持った途端に携帯が鳴った。
相手は母親。
スピーカーにして、身支度を整えながら
母の要件を聞く。
そう、大きくハキハキした声で言った。
俺は書類を鞄に入れていた手を止める。
そして、スピーカー機能をオフにして話す。
またこれだ。
毎回毎回同じ言葉を繰り返す。
『次期社長』
その言葉がどれだけ俺を苦しめているか。
母さん、アンタは全然分かってない。
父さんが社長の会社に働いて、
どれだけ同期に気を遣うのか考えて欲しい。
そう言い残して通話を切る。
朝から大きな溜息だ。
このまま行ったら本当に政略結婚にも成り得る。
頭をガシガシと掻きながら、
革靴を履いて玄関を出た。
朝から様々な人達から挨拶される。
それ自体は問題ないんだが、朝の話がある。
気分が沈むのも無理はない…と思う。
会社の廊下を歩いていると、
後ろからバシンッッ!と背中に打撃。
あぁ、またやられた。
同期の親友みたいなテヒョンに朝の事を話す。
まだ朝の出勤なのに何度溜息を吐いただろうか。
他人事のようにしやがって。と、内心毒を吐くが、
実際他人事なので何とも言えない。
そう思いながらエレベーターのボタンを押した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。