少女は家までひた走り。
出たときと同じ様に窓から入る。
出たときと同じ様に窓を締めて。部屋に母の姿が見えないことにホッとした。
…のも、つかの間。
叩きつけるように扉を開け、母が部屋に入ってきた。
迫りくる母の圧に耐えられず、少女の頬を、涙が伝う。
必死に頷く少女を、母はいとも簡単に投げ飛ばす。
壁に叩きつけられた少女は、一瞬、呼吸困難に陥る。
動く事もできない少女の首に、母は手をかける。
本当に殺される、そう思った少女は。
さっきまで話していた、あの少女の名を呼んだ。
窓も玄関も締め切った家の中に、旋風が起きる。
風に巻き込まれ、少女から引き剥がされ壁に叩きつけられた母は、意識を失っていた。
その母の首に、ルペは手をかけ、狐の鋭い爪を立てる。
焦った少女を、狐はあざ笑う。
意識を取り戻した母が、ルペに襲いかかる。
しかしルペにあっけなく投げ飛ばされ、袈裟固めを決められ動けなくなっていった。
藻掻き出ようとする母を固める力を、ルペは強める。
森であった時とは打って変わって冷たい態度のルペに、少女は困惑した。
抜け出せない事を悟ったのだろう。
突然態度を変える母に、少女は惑わされる。
天使のような声で。先程までとは打って変わったような声で呼びかける母親を見つめ、少女は混乱していた。
時の声とでも言えるようなルペの声に少女は弾かれたように顔を上げた。
その顔には。もう、怯えも迷いもない。
先程まで。険しい表情、口調だったルペの雰囲気が。ふっ……と緩んだ。
ルペは、母の額に手を当てる。
薄いモヤのような物が母の頭部を覆う。
やがて母は…否。母だった者は、緩やかに瞳を閉じた。
二人の少女は。夕闇を歩いて行く。
二人が出会った森に向かって。
呆れたようなルペの表情に、少女は困惑した。
名前を教えるな、と言われたのを思い出して思いとどまる。
そんな様子を見て察したのだろう。
ルペが案を出した。
少女にとって、すごく特別なその響きは、少女の心を掴む。
ついたのは、小奇麗な森の中の小屋だった。
木から垂れる蔦の影に隠れて、探しても容易には見つからないとこにあった。
新しい世界に飛び出した少女の目には、全てが輝かしく見える。
今日、この夜を超えれば、今までとは全く別物の生活が始まる。
そんなことに心躍らせつつも不安を感じ。
アミは狐に戻ったルペを抱きまくらにして暖を取り、目を瞑って意識を手放した。
後書き
名前を呼ぶことは、相手を縛ること、らしいですよ♪
次は健気なアミちゃんが見れるかもです…!
お楽しみに!
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。