第2話

選択
54
2020/08/29 03:36
少女は家までひた走り。


出たときと同じ様に窓から入る。


出たときと同じ様に窓を締めて。部屋に母の姿が見えないことにホッとした。





…のも、つかの間。  


叩きつけるように扉を開け、母が部屋に入ってきた。
少女
少女
っ!!
母
さてお前は今まで何処にいたんだい?
少女
少女
こっ……ここにいた…
母
うそつくんじゃないよ!!
少女
少女
ひっ…!
母
本当はどこにいたのか言ってごらん!!
ここにいなかったのは知ってるんだよ!
少女
少女
っ……ぁ………………
迫りくる母の圧に耐えられず、少女の頬を、涙が伝う。
母
ここにいろって言ったよなぁ!
外に出るなってあれほど言ったよなぁ!!
お前を学校に行かせる金はねぇんだよ!
だからお前はここの近所の奴らに見られちゃいけないんだ。わかるか??
必死に頷く少女を、母はいとも簡単に投げ飛ばす。

壁に叩きつけられた少女は、一瞬、呼吸困難に陥る。
少女
少女
かっ……はっ…!かひゅっ!
母
わかってねえよな!だから外に出るんだろ?
嗚呼面倒だ!だから餓鬼なんか産みたくなかったんだ!!
動く事もできない少女の首に、母は手をかける。
少女
少女
かひゅっ……おか、さ!やめ……!
母
死ね。そして私達の役に立て。
本当に殺される、そう思った少女は。





さっきまで話していた、あの少女の名を呼んだ。
少女
少女
……ぺ!ルペ…!たすけ…て!
ルペ
ルペ
チッ…呼ぶのが遅ぇよ!
窓も玄関も締め切った家の中に、旋風が起きる。
風に巻き込まれ、少女から引き剥がされ壁に叩きつけられた母は、意識を失っていた。

その母の首に、ルペは手をかけ、狐の鋭い爪を立てる。
少女
少女
や、やめて!お母さん、殺さないで…!
焦った少女を、狐はあざ笑う。
ルペ
ルペ
母さん?これが?
お前を絞め殺そうとしてたんだぞ?
少女
少女
そう…だけど……
ルペ
ルペ
死にたくないからお前は僕に助けを求めた。だからこいつは殺す。
文句無いな?
少女
少女
やめて……!
お母さんが…死ぬ、のは…
見たく、無い…!
ルペ
ルペ
はぁぁ……
母
な…んだよお前!!!
意識を取り戻した母が、ルペに襲いかかる。
しかしルペにあっけなく投げ飛ばされ、袈裟固めを決められ動けなくなっていった。
ルペ
ルペ
はっきりしろ。
僕に助けを求めるのか。こいつとここにいて殺されるか。
少女
少女
っ………!
母
ぐっ……はな、せ、よ……!
藻掻き出ようとする母を固める力を、ルペは強める。
ルペ
ルペ
こいつは一回この記憶を消しても。
また何かあればお前を殺そうとするぞ。
どーすんだよ。
こいつと一緒に居るのか?
少女
少女
しに…たく、ない…!
ルペ
ルペ
だから?
森であった時とは打って変わって冷たい態度のルペに、少女は困惑した。
少女
少女
え……?
ルペ
ルペ
お前はどうしたいんだよ。
それをはっきりと言え。
そして僕の名前を呼べ。
母
る……か…!ね?おかぁさん、助けてくれるよね…?
抜け出せない事を悟ったのだろう。
突然態度を変える母に、少女は惑わされる。
少女
少女
あたし…?あたし…は…
母
おかぁさんと、一緒に…いる、よね?
天使のような声で。先程までとは打って変わったような声で呼びかける母親を見つめ、少女は混乱していた。
少女
少女
ぁ………
ルペ
ルペ
はっきりしろ!
流されんな!!自分で決めるんだよ!
時の声とでも言えるようなルペの声に少女は弾かれたように顔を上げた。

その顔には。もう、怯えも迷いもない。
少女
少女
あたしは…!
あたしは外に出たい!!!
ここに居たくない!
ルペ!あたしを連れてって!!!
先程まで。険しい表情、口調だったルペの雰囲気が。ふっ……と緩んだ。
ルペ
ルペ
そうこなくっちゃ。
少女
少女
母さんは。あたしのことなんか産んでないから。
母さんはこの家に一人で住んでるの。
あたしのことなんか忘れて生きて。
ルペ
ルペ
……あんたは優しいね。
母
るか……!?
ルペは、母の額に手を当てる。
薄いモヤのような物が母の頭部を覆う。
やがて母は…否。母だった者は、緩やかに瞳を閉じた。
ルペ
ルペ
あんたについての記憶を消したよ。
少女
少女
そっ……か。
ルペ
ルペ
さ、行こうか。僕の住処においで。
少女
少女
…うん!








二人の少女は。夕闇を歩いて行く。

二人が出会った森に向かって。
ルペ
ルペ
……これで。仮は返したよ。
少女
少女
仮…?なんかしたっけ??
ルペ
ルペ
力……貰った。
あんた来なきゃ僕飢え死ぬとこだった。
少女
少女
( ゚д゚)ポカーン
ルペ
ルペ
なんちゅう顔してんだよ……!
少女
少女
…これから…いつもあたしが居たら、死なない?
ルペ
ルペ
何。ずっと一緒に居る気なの?
少女
少女
一緒に居ないの?
ルペ
ルペ
バーカ。
人と妖怪とじゃ、寿命が偉く違うんだよ
少女
少女
ルペ居なくなっちゃうの?
ルペ
ルペ
あんたに興味がなくなったらね。
少女
少女
…ヤダ!
ルペ
ルペ
は!?
少女
少女
ルペは一緒にいて!
ずっと一緒に居たい!!
よくわかんないけど力ならあげるから!
ルペ
ルペ
……じゃあ、あんたが死んだら、あんたの魂と亡骸は僕にくれるかい?
少女
少女
いいよ!
ルペ
ルペ
………一応聞いとく。意味わかって言ってる?
少女
少女
わかんない。
ルペ
ルペ
( ゚д゚)ポカーン
呆れたようなルペの表情に、少女は困惑した。
ルペ
ルペ
まぁ、いっか。
そーだ。あんた、なんて呼ばれたい?
あんた、とか君、じゃ不便だ。
少女
少女
あっ…じゃあ………あー…
名前を教えるな、と言われたのを思い出して思いとどまる。
そんな様子を見て察したのだろう。
ルペが案を出した。
ルペ
ルペ
アミ、ってどう?
フランス語で、友とか、仲間って意味だよ。
少女
少女
友………!
少女にとって、すごく特別なその響きは、少女の心を掴む。
ルペ
ルペ
決まりだね。
僕のことはルーって呼んでよ。
いちいち真名取られちゃたまらん。
アミ
アミ
まな…?
ルペ
ルペ
本当の名前の事。
言葉には力があるから。力の強い人に真名を呼ばれてお願いされたら、断れなくなるんだ。
…断りたくても。
アミ
アミ
…凄いね
ルペ
ルペ
他人事かいなwww
アミ
アミ
え??
ルペ
ルペ
アミは、力が強いんだよ
アミ
アミ
へぇ?
ルペ
ルペ
だから、妖にも、絡まれやすい。
でも僕が守ってあげるから。心配しないで。
アミ
アミ
うん!
ルペ
ルペ
…ついたよ!ここが僕の住処。
ついたのは、小奇麗な森の中の小屋だった。
木から垂れる蔦の影に隠れて、探しても容易には見つからないとこにあった。
アミ
アミ
きれい…!
ルペ
ルペ
どんなの想像してた?
アミ
アミ
え、なんか…狐の巣!みたいなの
ルペ
ルペ
あーねwww
僕ただの狐じゃないからwww
アミ
アミ
そっか…!
新しい世界に飛び出した少女アミの目には、全てが輝かしく見える。
今日、この夜を超えれば、今までとは全く別物の生活が始まる。
そんなことに心躍らせつつも不安を感じ。
アミは狐に戻ったルペを抱きまくらにして暖を取り、目を瞑って意識を手放した。











後書き
名前を呼ぶことは、相手を縛ること、らしいですよ♪

次は健気なアミちゃんが見れるかもです…!
お楽しみに!

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