第3話

君は魔法使い
124
2020/03/06 06:19
早乙女 美咲
早乙女 美咲
あっ、ひかるん!
中野 光
中野 光
っ、その呼び方やめてくださいよ。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
えっ?なんで?



 今日も早乙女先輩は屋上にやってきた。でも今日の天気は悪い。薄暗い空が広がり、ポツポツと雨が降り出しそうな天気。
 普段なら僕も来ないんだけど…早乙女先輩が来るならと思って来てしまった。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
ひかるん嫌なの?



 早乙女先輩は僕の隣に座った。いつもと場所が違うのにひっつき回ってくるのは多分僕の匂いを嗅ぎたいから。
中野 光
中野 光
…恥ずかしいですよ。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
誰も来ないよ。こんなとこ。
…なんでいつもの場所じゃないの?
中野 光
中野 光
雨降りそうなんで。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
なるほど。ひかるん賢いね。


 太腿の上に弁当を広げた早乙女先輩は笑顔でそう言った。絶対に一緒に食べる友達とか、彼氏とかいるのに。匂い目当てに僕の所に来てるなんてもったいない気がする。


 また、トマトがグラタンと混ざらないうちに食べた。すると額に何か冷たいものが1粒、当たった。
中野 光
中野 光
あ、雨。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
ありゃー、予想より早かった?
中野 光
中野 光
はい。



 しかし、ここで教室に戻るのもあれだ。屋上に向かう階段で食べれば何とかなるな。
中野 光
中野 光
先輩、階段で食べましょ。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
うん。そうだね。



 早乙女先輩はにっこり笑ってまだ中身が入っている弁当箱に蓋をした。屋上のドアを開けて校舎の中に入る。雨前は冷えるようで中と外の温度差は思っていたより大きかった。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
なんか、あったかいね。
中野 光
中野 光
そうですね。外にいる時はあんまり感じなかったのに。

 季節は春。暑くも寒くもないこの時期。1番過ごしやすいこの時期。花粉がどうとか言うけど僕は花粉症じゃないので特に困ることはなかった。
 屋上に向かう階段に座って弁当を広げた。直線ではなく、踊り場を挟むタイプの階段なので3階からは死角だ。こういう時だけ役に立つ。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
室内の方がひかるんの匂いがする。



 そうやって今日も耳元で僕の匂いを嗅ぐ。昨日、家に帰って自分の部屋とか洗剤とか色々匂いを嗅いでみてから自分の匂いを嗅いだんだけど…。自分の匂いに慣れすぎていて無臭としか感じられなかった。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
今日は抵抗とかしないんだね。
中野 光
中野 光
抵抗しても捕まえてきますよね。



 何回も逃げようとここ数日試みても、早乙女先輩から逃げられることはなかった。というか、途中で抵抗が面倒くさくなってきて諦めたのは僕なんだけど。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
だって匂い好きなんだもん。
中野 光
中野 光
それは分かってますよ。
なんで僕の匂いが好きなんですか?
そんなにいい匂いですか?



 何度も嗅いだ制服から匂うものは何も無くてただの空気しか出ていない気がする。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
うーん。なんか安心感があっていいんだよね。癒しみたいな?
中野 光
中野 光
へぇ。無臭ですけど。
早乙女 美咲
早乙女 美咲
するの!ひかるんの鼻が腐ってるだけ!
中野 光
中野 光
っ、腐ってるって!し、失礼ですよ!



 昼のこの時間。
 学校で過ごす時間の中で1番好きな時間。
 チャイムよ、鳴らないでくれと思ってしまうこの時間。



 あぁ、早乙女先輩って楽しませる魔法を持ってるのかな。

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