今日もいつもの気分で屋上にやってきた。この生活が始まってからはや、1ヶ月。季節は初夏だ。屋上の匂いも少しだけ変わっていた。
早乙女先輩のように鼻はよくないからわかんないけどふわふわからすっきりしたようなそんな天気。
最近は風もやんで、過ごしやすくなった。まだ1人だった頃、風が強くて弁当箱が吹っ飛んだこともあったし。
先輩が好きと分かってから生活が明るくなった。あの微笑みや声を思い出すだけで心が弾んだ。
教室でもかなり変わった部分がある。今までは板書を写すだけだったけど積極的に発表したり、班活動でも意見を言ったり。先生からは明るくなったね、とか成績がぐんと上がるよ、とか褒め言葉を頂いた。
そこから出来た友達もたくさんいて、一緒にご飯食べよと誘ってくれる人もたくさんいるけど、食べたい人がいるといて断っていた。
そう、すべては早乙女先輩の為。
こんなに世界が変わるものであると思ってなかったし。屋上の出会いがここまで発展すると思ってなかった。
立入禁止の出会いというのが特別感もあっていい。このままずーっと、こうしていたいけど先輩はひとつ上だ。1年先に卒業してしまう。
卒業までに告白しないと後悔は募るばかりだ。
いつもなら息を切らしてでも来るのに。今日は先輩が来ない。そんなこと今まで無かった。
お互い体は強かったので風邪をひくなんてめったにない同士。
待っていても来なかったら意味ないので先に弁当を食べることにした。
ほうれん草は苦手だ。1回、先輩に食べてもらった。でも今日はいない。我慢して先に食べることにした。
舌にできるだけつけないように。噛んで飲んで。
どうしても時間がかかった。なんとか胃の中にいれ、好きなトマトを食べれば苦味はすぐに吹き飛んだ。その後、全て食べきった。
でも先輩は来ていない。
先輩がいない屋上は久しぶりだ。温もりもなければ会話もないし、先輩が匂いを嗅ぐ音もしない。そこに寂しさを感じてしまう。
いつもの日々が先輩あってなんだと改めて気がついた。
すると、チャイムが鳴った。
結局、先輩は今日、屋上に来なかったのだ。
考えたくもないが彼氏が出来たのかもしれないし。休みかもしれない。でも、1度でいいから話がしたい。
僕は立ち上がって屋上の扉をあけた。
そう吐き捨てて、屋上から去った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!