「おぉ、中野。昨日大丈夫だった?」
嘘だ。風邪なんて引いてないに等しい。でも恋愛がどうとか言える仲ではない。
''この恋はバレてはいけない''のかもしれない。そう思い、ロッカーに鞄を置きに行った。
*****
「ってか、本当に珍しいよな。お前が風邪ひくなんて」
「中野がいなかったから昼の会話があんまりだったんだよ」
「お前…俺がつまらないみたいに言うなよ」
2人は笑いながらそう言った。
僕、ちゃんと必要とされてるんだ。それだけで嬉しい。主人公にはなれなくとも、主人公の友達Cくらいにはなれているのかもしれない。
「でもお前損したぞ」
「昨日、うちのクラスに早乙女先輩が来たんだよ。その後時間差で齋藤先輩も来てさ」
「あれは絵になるよな。てか、何のために来たんだ?」
2人は大きな声で他の生徒を呼んだ。事情を聞いてた時に不安が募った。なんの為に?このクラスには特に部活動で引っ張りタイプの人もいないし、生徒会の人もいない。
「だってさ、お前だよ」
「おいー。聞いてなかったのかよ」
「だから、お前を探しに来たんだって。なんでか分かんないけど」
会えるなんて思ってないけど。
「それなら、屋上行けば?昼飯と昼休みの屋上にいるらしいぞ。なんでか分かんないけど1人でいるんだってよ。先生には黙認されてるらしいし」
早乙女先輩は屋上に?なんで。齋藤先輩と一緒なら分かる。でも1人なんておかしい。
チャンスがまだあるのかもしれない。
「中野?」
今、走らないと後悔する。絶対に。
机から立ち上がり、教室から走り去った。
息を切らして廊下を走る。階段を見つける。階段をただひたすらに上がる。
ずっと、夢見ていた青春。叶うことの無い初恋。でも、今の僕ならいける。変われたんだから。もう何も怖くない。
早乙女先輩、ずっと言いたいことがありました。どうか、どうか屋上にいてください。
屋上の扉を開けると、そこには
1人で弁当を食べる早乙女先輩の姿があった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。