大泣きしているのに、早乙女先輩が現れた。
そして、何事も無かったように僕に微笑みかけた。
何も心当たりがないような言い様。腹が立って仕方がない。いつの間にか怒りの感情が溢れて涙なんて止まっていた。立ち上がり先輩を強く睨みつけた。すると、先輩は困った顔をした。
止まらない。本当はこんなこと言いたくないのに口から溢れるのは先輩を困らせる言葉だけ。止めようと意識しても出てきてしまう。
慌てて階段を降りた。もう、どうだっていい。嫌われたことは確信してるし。
振り向かずにそのまま降りた。先輩に好きと言いたかったのに。結局青春は全部そう。
僕なんか主人公になれるわけなくて。青春の神様は齋藤先輩と早乙女先輩の物語を作りたくて仕方ないんだよ。きっとそうなんだ。
教室に慌てて戻った。教室まで来ればもう追ってこない。好きな気持ちはもうなくそう。
自分の席に座って色の欠けた生活を始めようと思った。チャイムが鳴り、授業が始まってもなかなかその気になれなくて、教室の外を見ていた。
「じゃあ、中野。123ページの13行目読んで」
急に当てられ、教科書すら開けてなかった僕は123ページをパラパラと開いて13行目を見た。
花はいつか枯れます
私達もいつか枯れます
枯れた花は土となり
土は花を育てます
私たちは灰となり
空へ舞って
雲の一部となります
雲は雨を降らせ
生物を生かします
私たちも生物の一部
世界の一部なのだ
「はい、ありがとう」
椅子をガガっと引いて座る。教科書に乗っていていいのか分からないくらいのポエムだ。
そんなこと言ったら僕もか。
この世に生きていていいのか分からないくらいの人間。だから恋が上手くいかないし、モブキャラ並の存在で。
バカみたいだよ。何をしてるのか分からないし。
ぼーっと、考えながら板書を写していたらチャイムが鳴り授業が終わった。
机の中に全てしまい込んで机に伏せる。
せっかく仲良くなれたのに。もう明日から屋上に通うのをやめよう。先輩の匂いがない屋上は寂しかったし。
青春なんて信じるんじゃなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。