恋人。こいびと。コイビト。頭でその単語を何度も繰り返し再生する。
類は、大きな溜息をつきベッドへ身を沈めた。
───今日、類と司はついにすれ違っていた2人の想いを伝え合い、晴れて恋人になれたのだ。
その告白の様といえば、顔も真っ赤に染まって言葉もたどたどしく紡がれるものばかりで、傍からはとても見られたものではなかったが、類はその時の様子を何度も思い出す。
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『──僕は司くんのことが好きなんだ』
『ファ°?』
『それどんな声出てるんだい』
『いゃ…ぉ前がォレのことをスキ?隙?鋤?』
『〜〜〜!だ・か・ら!僕!神代類は!天馬司が!好きなんだ!』
『えあ…?もちろんオレもすっしゅきだggg???』
『そうじゃなくてLOVEの方だよ!僕は恋愛的な意味で君がすきにゃんだ!』
『おっオレもすきでゃぞ!!』
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(あの後2人とも顔を真っ赤にして、褒め合いが始まったんだっけ)
どうしてもニヤけが止まらない顔に、最早聞き取れないほど拙く発せられる言葉。ワンダーランズ×ショウタイムの演出家として考えられないくらい、なんとも滑稽な告白だった。しかし類は、斜陽の差す教室で、ヴェールのようなカーテン越しに見た赤く熟れた林檎のような顔を、「ああ、綺麗だな」なんて今更のように思う。
その時の司を思い出した類は、嬉しさやら恥ずかしさやらで枕に顔を埋め、恋する乙女のように足をバタつかせた。
そう、こと恋愛に関しては、周囲から天才と謳われる神代類も、ただの1人の男子高校生なのだ。
────なぁ、るい
『これからも、よろしく頼むぞ』
.
同時刻。類と、同じくして眠れなかった司の声が部屋に響き、咲希から「お兄ちゃん、うるさいよー!」と言われた。しかしその声は司には届くことはなく、唸り声をあげながら毛布に蹲っている。
2人の眠れない夜はまだまだ続いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。