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第3話

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暑さで心臓の音が木霊している。肌にはいくつもの汗の粒が浮き上がり首筋に髪を張り付かせていた。
二人はだだっ広い道路を歩く。
たまに日陰の路地裏に入ったりして、迷うことなんてせずに進む。たまにすれ違う人たちにはじろじろ見られるのは何て言ったって平日の真っ昼間だ。
高校生というには少しだけ足りない二人の影は反抗して学校にいかない悪ガキのように捉えられても仕方がない。

「あちぃー」
「自販機なかなか見つからないね」

Tシャツをパタパタと浮かせながら風を煽る。

「おうちゃん、お金ってどのくらい持ってきた?」
「えー、たぶん2000円くらいだと思う」

俺もそれくらいあるからどっか店入ろうぜーと歩く絋雪。桜一朗はいいかも、と呟いてふたりは歩きを進めた。少し行くと商店街に差し掛かった。自分達が住んでいるところよりも少し小さめだが二人にとってはオアシスだ。
そそくさとお店をきめて、ひとつの喫茶店に入った。

「いらっしゃいませ」

店主の低めの声がふたりを迎える。ほどよく冷えた店内は心地がよく、流れ出る汗を止めさせた。ふたりが席へつくとおしぼりとお冷やをお盆の上にのせていく。

「君たち、学校はサボりかい?」

ふたりはどきりとした。だが、こういうとき絋雪は持ち直すのが早く、強い。

「そうなんです、サボっちゃいました」
「おやおや。懐かしい。私もよくサボってね。先生に叱られたよ、はっはっは。まあ、ゆっくりしていきな」

店主の笑い声が店内に響く。現在の客は絋雪はと桜一朗だけのようだ。店内は茶色を基調としてまとめられており窓から入ってくる太陽光を優しく受け入れていた。
メニューにはカフェ王道のものがずらりと書かれていた。

「なんにする?」
「オムライス」
「決めるのはや。」
「俺は初めてきたところではオムライスって決めてる。メニューにもあるし。ひろは?」

顎にゆびをあて真剣に考える。

「暑いし冷麺にしようかな」
「あ、うまそう」
「ちょっとやるよ」
「ありがと」

気をきかせて食べるものが決まった頃に注文を取りに来た店主。すぐに飲み干してしまったお冷やのおかわりを頂いて待っていた。

「本読んでて良い?」
「ん、あぁ、いいよ」

絋雪は本を読みながらもたまに桜一朗の方へ視線をみやる。気がついて自分一人だけだったとか洒落になら無いなんて考えながら読み進めていた。

「ひろ、さっきからどうした?」
「あ、ばれた」
「ばれるに決まってんだろー。ちらちらと」
「んーなんでもない」
「いやいや」

あーだこーだと話しているうちにサラダが運ばれてきた。

「あれ、セット頼みましたっけ?」
「昼は勝手にセットになるんだよ。暑いししっかり野菜食べて筋肉つけな!」

野菜を食べて筋肉はつかないと思う、なんて言葉は飲み込んで。

「ありがとうございます」

と声を揃えて言った。トマトにキュウリの千切りにレタス。みずみずしい色が早く食べてと言っているようだ。
絋雪が食べ始めるなか、桜一朗は手を合わせていただきますをしていた。

「おうちゃんそゆとこ変わらないな」
「ん?」

しゃきしゃきと噛む音をたてながら絋雪を見る。

「いや、そういう、いただきますを丁寧にするところとか。俺とかしないで食べ始めちゃったし」
「母さんが厳しかったから」

ははっと笑いながらトマトを口に含んだ。
お前は何も悪くない。お前のお母さんも何も悪くない。そんな顔をすんな。渦巻く感情を圧し殺して会話を続けた。
メインが運ばれてくると感嘆の声をあげた。

「おおおお」
「そんなに珍しいものでもないだろう?ちょっと多めにしてあるから腹一杯にしていきな!」
「ありがとうございます!」

回りと比べればちょっと華奢な桜一朗でもやはり中学生であり食べる量は決して少なくはない。絋雪もがつがつと食べ進めており、半分ほど食べたところで桜一朗にあげると言ったことを思い出した。

「おうちゃん、食べる?」
「あ、もらおうかな」

どことなく嬉しそうにスプーンから新しいフォークに持ち変える。端の方の麺をくるくると巻き付けて食べ、おいしい、とこぼした。

「ひろも食べるか?」
「どうしよ、遠慮しとくわ。ありがと」
「んー」

すべて食べ終わると店主がグラスの中にアイスをいれて持ってきた。

「え! 頼んでないです」
「セットのデザートだよ。暑いからね、ケーキよりもアイスのほうがお客さん嬉しいでしょ」
「おいしそう」

チョコレートとバニラのシンプルなアイスだけれども二人が満腹感を感じるにはちょうどよかった。

「おじさん、ごちそうさまでした。おいくらですか?」

「おふたりで2100円になります」
「おおお! 安い!」
「ありがとう」

お互いに1050円ずつ出しあって、お昼休憩は幕を閉じた。またきてねーと手を振る店主はとても笑顔だった。

「サボってることバレちゃったね」
「おうちゃんもうちょい堂々としてればいいのに」
「いや、なんか縮こまっちゃうんだよなぁ。お前はいいなぁ、羨ましい。背も高いし」
「そうかあ? もっと高いのぞろぞろいるじゃん。まだ中3だし心配することねえよ」
「……そっか」
 
その悲しみを含んだ笑顔をやめてほしい、とおもったとき絋雪はハッとした。
桜一朗は、自分の中ではあと何日かの余命のうちにその背丈で世界を見てみたかったのだと。

六月とは思えない暑さに嫌気がさしてきた。歩く先は陽炎かゆらゆらとたっている。さっき食べたアイスの魔法が効いているからかお
昼前より体が軽くなったからか、ふたりして走ってはしゃぎ回っていた。

「本当にこっちで合ってるのか?」
「え! ひろ知っててついてきてくれたんじゃないの?」
「はああ?」
「うそうそ、冗談冗談」
「マジで焦った。こんな暑い中さんざん歩いて間違ってましたとか洒落にならねえ」

商店街を抜けると少し栄えた町並みが見えてきた。カラオケやちょっとしたゲームセンターなどが目につく。

「なぁ、今日中に行けるのか?」

絋雪は思ったことを聞いてみた。

「わかんない」
「まじか」
「うん。まあ、やりたいこと潰していこうかなって感じかな。ゲーセン行ってみたい!」

桜一朗は絋雪のさきをぐんぐん進んでいく。
自動ドアをくぐり抜けた瞬間のあの涼しさはまるでゲームセンターが天国のように思えた瞬間だ。

「おうちゃん、なにかしたいゲームあるのか?」
「んー? 特にないけど、なんだろ、この雰囲気を味わってみたかったというか。それに暑かったし! お金もそんなにないしな」

満面の笑顔の桜一朗の姿は昨日から一緒にいる時間の中で初めて見た。無意識に固まってしまっていた紘雪の肩をポンと叩き「いくよ!」と前をずんずんあるいていく。
クレーンゲームのコーナー、プリクラのコーナーを進んでいくと、再びクレーンゲームが現れた。

「ゲームセンターってクレーンゲームでできてるんだね」
「まぁ……語弊はあるが少なからずそうだろうな」
「ひろ、テレビゲームできるし、クレーンゲームもできるんじゃないの!?」

おいおい画面の中と現実を混ぜるな、と言いたいような顔をしながらも興味には勝てない。200円を機械に投入しよくわからないペンギンのぬいぐるみを狙ってみる。

「……とれた」

桜一朗は取り出したペンギンを持つ紘雪に憧憬の眼差しを向けていた。

「以外といけた。場所が良かったんだ」
「初めて?」
「まあ」
「おぉ、すげー」

「おうちゃん」
「ん?」
「あげる」
「え、いらねー」
「俺もいらねぇ」
「ははっ。じゃ、ありがたくもらっとくわ。サンキュ」

ペンギンのぬいぐるみは桜一朗の鞄へあたまだけ出すような形でしまいこまれた。夏の暑さで溶けてしまわないか、心配だ。

「お礼にゴリゴリちゃんカレー味を奢ってあげよう」
「そんなもんいらん」