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第5話

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秋待駅から冬間駅までは近かった。そのせいか電車に追われることもなく無事に駅にたどり着いた。

「なんか、山の中に入ってきたな」
「そうだね……」

二人の会話はまるでなくなっていた。蜩も鳴き始め影が長くなってきていることがわかる。

「今日、母さんには会ってないんだ」
「うん」
「きっと心配してる」
「うん」
「ありがとう」

このまま歩いて冬間駅を通りすぎようとした。

「こら! 君たち! 線路の上歩いちゃいかんだろ!」

今まで待ち人がいなかったせいか油断していた。

「す、すみませ…」

謝ろうとした桜一朗の手を引っ張り、紘雪は駆け出した。

「おまえら! 逃げるな! おい!」

おじいさんは駅員を呼んでまで怒鳴っていたっぽいがこう遠くまで来てしまえば知ったこっちゃない。

「ひろ!」

そう呼ばれてパッと手を離す。

「ごめん」

汗ばんだ手のひらを握りしめた。

「夏夢……行けなくていいや」
「え?」
「もう、終わりにしよう。十分だ」
「は……? 一緒にいくんだろ? おい、俺を連れてけよ!」

「もう、他人にも嫌われたし、この世界にいる意味はないし十分だよ」

ここでは駅員が追いかけてくる可能性がある。だが脇にそれてしまえば遭難しに行くようなものだ。

「俺はここで、こっちに行く。ひろは、どうする?」

桜一朗の視線は本気であった。
だからそれに答えるように視線をあわせる。

「行くに決まってる」

傾斜になっている砂利道を降りて鬱蒼とした森の中に進み始めた。

二人は無言で進む。

「なぁ」

紘雪の呼び掛けに桜一朗は答えない。

「おい」



「おい」




「おうちゃん!」
「うるせえ!」

振り返った桜一朗は泣いていた。
紘雪はハッとして立ち止まった。

「ひろ、ありがとう。お前がいなかったら俺はもう見れんタラタラなまま地縛霊になってたよ。死ぬのは怖いけど今日1日だけで死んでもいいと思えるようになった」

桜一朗はカッターを鞄から取り出した。

「おい」

チキチキと刃を繰り出していく。
無意識に紘雪は桜一朗を抱き締めていた。

「ふざけるな。刺すなら俺を刺せよ。刺せるもんなら刺してみろよ!」

「紘雪、ありがとう」

桜一朗はそう言って俺の肩と首の隙間から自分の首を刺した。
生暖かく塗る利、とした感触がじわじわとTシャツの中に入ってくる。

「おうちゃん……? おうちゃん!」

君を呼んでも返事はない。

「桜一朗!」

俺が覚えているのは、駆けつけた駅員の顔と、ブルーシートにくるまれた桜一朗だった。