「よーい!どん!」
生徒たちの走る音が地面に伝わる。さっきより虫の鳴き声が増えた気がする。
「今、トップを走っているのは虎太朗君かな?」
虎太朗は、中学生の頃、陸上部に入っていた。さすが元陸上部という名前がある分速い。しかし中学校3年生の時に、足に大ケガを抱いて退部したようだ。
「あ、2位は晴大君だ。」
晴大は特に何もしてなかったが、幼稚園の頃体操をやっていたらしいけど、すぐ辞めてしまった。飽きたかららしい。
「あと、半周!!!」
エマの声は夏の暑さに溶け込んで、燃えている。エマから流れ出る汗はまるで雨のしずくみたいだ。
「あ、!!晴大君が追い上げている…!!」
「虎太朗君も粘っている‼」
最後の直線で、二人とも全力を出している。これはエマとデートに行きたいということだろうか。
「あと、50メートルぐらい!頑張れ!」
すると、ここである異変が起きた。
(え…。クラクラするっ…。)
「バタッ…。」
エマが倒れてしまった。その事にいち早く見つかったのが、虎太朗だ。 まだ虎太朗はゴールしていない。
「大丈夫か…??俺が保健室に連れていっていいかな??」
もう、ゴールをした晴大に目線を合わせている。
「別に…。」
晴大のいつもの口癖だ。
「分かった。」
虎太朗はエマを持ち上げた。いや、ただ持ち上げた訳ではない。お姫様抱っこをしたみたい。
「ちっ…。」
晴大の下をならす音。なぜならしたのかは誰にも分からない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!